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院長コラム

 このたびの西日本豪雨災害の影響により被害を受けられました皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く復興がなされますことを心よりお祈り申し上げますとともに、お亡くなりになられました方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 3年前から小児訪問診療を始め、その家族(特に母親)の疲弊を少しでも軽減し家族の休息(レスパイト)をしてもらうため、医療的ケア児の日中一時預かり施設「スマイル」を開設し2年が経ちました。今月はお子さんや家族に寄り添った3年の経験談を皆さんにお伝えいたします。 

医療的ケア児は増えている

 生まれた時から重い障害があり、人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子どもたちのことを「医療的ケア児」と言います。厚生労働省の調査では医療的ケア児は約1.8万人(平成29年度)で10年前の2倍に増加しています。一方で3年前の厚生労働省の調査では、医療的ケア児に関わる親の負担が相当重く、睡眠をまとまってとれていない現状がわかっています。スマイルを利用時、体を休めていることがあり、日々のケアで疲弊していることが伺えます。

交流会での話

 日々のケアや病院への通院、リハビリなどで忙しい家族にとって、医療的ケア児やその家族間の交流を望んではいるが、なかなかできていないのが現状で、家族の現状では社会から孤立しています。こういった背景からスマイルでは年に1回、家族の集いを企画し今回で2回目になりました。昨年は3家族、今年は7家族と増えています。交流会の前に隣接しているげんき夢こども園の夏祭りと同時開催で、園のスタッフと園児・保護者のご理解で夏祭りに参加させていただきました。模擬店でカレーライス、かき氷などを食べ、ゲームにも参加させていただき、医療的ケア児の兄弟も一緒に家族で楽しむことができました。夏祭りの参加後、交流会が始まり、参加家族の自己紹介が始まり、1人1人が自分たちのこれまでの話をしました。辛かった思いを語る時は言葉に詰まったり、涙を流しながら語っていました。新米家族の不安な点を先輩家族がその不安に答える場面があり、交流会後はお互い話をしたり、連絡方法を聞き、母通しのお茶会を予定するなど、交流会をきっかけに親通しの親睦も生まれました。日常生活では経験できない当事者通しの交流は本当に貴重なことではなかったのではないかと感じました。明日からの生活へ元気をもらったと思いました。

バクバクの会~人工呼吸器ととも生きる

 バクバクの会は全国組織で人工呼吸器をつけた子どもたちの「いのちと思い」を何よりも大切にどんな障害があっても“ひとりの人間、ひとりの子ども”として、あたりまえに生きられる社会の実現をめざして活動をしています。6月末、げんき夢こども園のホールで、この会主催の上映会と意見交換会がありました。
上映会では「風よ吹け!未来はここに!!人工呼吸器をつけて地域で生きる~ともに生きる力を育もう」という題のドキュメンタリーで、人工呼吸器や医療的ケアを必要としながら、保育園や学校に通う子どもたちと、すでに自立生活をしている青年たちの様子が描かれていました。家族の思いや園・学校の理解で、医療的ケア児が普通の保育園や学校へ通っていたこと、成人になって自分の意志で親から離れ、グループホームで生活する姿を観て、その生き様に多くの勇気をいただきました。決してできないことはないんだということを思い知らされました。
さらに意見交換会では先ほどの交流会での家族とは別の5家族からの話を聞きました。多くの苦労話があり、この方々の多くの努力で今の私たちがいるんだと感じました。交流会のお子さんよりも年齢が高く、10~30歳台で親の世代も高齢になっています。親なき後の生活まで考える必要があること、それを社会が考えねばならないことだと実感させられました。
 最後に、現在山梨県において、約100人程度の医療的ケア児がいて、年々増加しています。医療的ケア児が生まれることがどのご家庭にも可能性があります。医療的ケア児は現在、健常なお子さんが普通に行ける保育園や学校に通うことが困難であります。実際、母親が、母親が就業できない現実もあります。多くの方のご理解があれば、一つ一つの課題を乗り越えることができます。

参考文献

バクバクの会 ホームページ https://www.bakubaku.org/
厚生労働省 医療的ケアが必要な障害児への支援の充実に向けて
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000180993.pdf#search=%27%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E5%8C%BB%E7%99%82%E7%9A%84%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%81%8C%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%AA%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E5%85%90%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%81%AE%E5%85%85%E5%AE%9F%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%A6%27

 夏到来、海や山に遊びに行く機会が増えます。けが、水の事故、熱中症に気をつけて楽しい夏の思い出を作ってください。先月の父の日、うちの娘は保育園で作ってきたフォトフレームを私にくれました。園児らで何を作るかを考え、何色が好きかと私に事前に聞き、一生懸命に作成してくれました。私の一生の宝物になりました。
 先月11日、沖縄県の麻疹流行が終息しました。全国的な大流行にならず、安心しました。再び麻疹流行を阻止するには平時での取り組みが大切です。1歳児には麻疹風疹(MR)ワクチン1期、年長さんの方はMRワクチン2期を接種しましょう。今月は昨年発表された「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」を基に、急性胃腸炎の対応法についてお話したいと思います。

胃腸炎って?

 原因はウイルスと細菌に分けられ、多くがノロウイルス・ロタウイルス・アデノウイルスなどのウイルスによるものです。頻度は少ないですが、大腸菌・サルモネラ菌・カンピロバクターなどの細菌によるものがあります。病名は胃腸炎が一般的ですが、感染性腸炎・腸感冒・おなかのかぜ・嘔吐下痢症はどれも同じと考えてください。症状は嘔吐・下痢・腹痛・熱・頭痛などがあります。嘔吐のみ、下痢のみ、腹痛のみで治まる場合もあります。例年秋からノロウイルス、年明けにロタウイルスが流行します。ロタウイルスは一般的にノロウイルスより症状が重く、乳児の場合は入院することもありますが、ロタウイルスワクチンが導入されるようになってから、重症化するお子さんがワクチン導入前に比べて大きく減っています。感染経路は主に接触感染で便や嘔吐物を触り、手などから口に入り感染します。潜伏期間は1~3日程度です。

診療ガイドラインって?

 最近、熱性けいれん・ぜんそく・食物アレルギーなど数々の診療ガイドラインが作成され、治療の均一化が進んでいます。そのガイドラインは推奨される治療法とその根拠が書いてあります。
 「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」は専門家(日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会)により、科学的根拠に基づく医療の考え方に沿って推奨される診療内容を17項目(CQ1~CQ17)にまとめて、初めて作成されました。重症化するO-157などの特殊な細菌性胃腸炎ではなくウイルス性胃腸炎に対してのみ書かれています。

小児急性胃腸炎診療ガイドラインより

 「経口補水療法」については、軽症~中等症の脱水のお子さんは治療として経口補水療法が推奨されていること(CQ6)、経口補水療法は「OS-1」(大塚製薬)を代表とする経口補水液がお勧めで、初期治療として嘔吐や下痢で失われた水分と同じ量を4時間以内に飲ませること(CQ7)、与え方はティースプーン1杯程度を5分ごとに飲ませるとよいこと(CQ8)、経口補水液を嫌がる場合、塩分を含んだ重湯、お粥、野菜スープ、チキンスープで代替してもかまわないこと(CQ9)、
 「食事療法」については、経口補水液を飲みながらでも母乳は中断せず、併用しながら対応してよいこと(CQ10)、脱水が改善したらミルクや食事はすぐに開始してもよいこと、食事の内容はお粥などではなく、年齢に応じた通常の食事でかまわないこと、食事制限をしても直るまでの期間に変わりはなく、むしろ体重の回復を遅らせる可能性があること(CQ11)、ミルクの希釈はしないこと(CQ12)、乳糖除去乳の有効性は確認されているが、コストと効果のバランスを考慮すると最初からすべてのお子さんに使用する必要はないこと(CQ14)、
 「薬物療法」については、止痢薬・止瀉(ししゃ)薬の使用は推奨されないこと、止痢薬は有効とのエビデンスが乏しいこと、止瀉薬(ロペラミド)は乳児でイレウスの発症が報告され、2歳未満は原則禁忌となっていること、制吐薬は有効とする報告があるが、錐体外路系や心電図異常の有害事象が報告されていること、多くはウイルス性であるため一律に抗菌薬の使用は推奨されないこと、漢方薬は有効とするだけのエビデンスがなく、現時点で推奨度を決めることができないこと(CQ15)、
 「予防と教育」については、ロタウイルスワクチンにより重症ロタウイルス胃腸炎に対する予防効果が90%以上認められること(CQ16)、感染拡大防止には手洗いの徹底と次亜塩素酸消毒剤による消毒が重要であること(CQ17)と述べられています。
 一方で実際はガイドライン通りに診療すればよいのではなく、同じ病気でも子ども一人一人症状が違うため、ガイドラインを基にした個別の対応が求められています。

参考文献

小児急性胃腸炎診療ガイドライン 

 草花は成長し、田んぼには早くもカエルの鳴き声が聞こえる季節になりました。冬は折り紙やトランプをして家で過ごすことがほとんどだったうちの娘(5歳)も外で遊ぶのを楽しんでいます。4月頃「自転車の補助輪、取って」というので心配しながら、補助なしの練習をしました。何回か転んで傷を作ったり、泣いたりしましたが、補助なしで乗れるようになりました。生まれて、歩き始め、話し、補助なしの自転車にも乗れるようになり、一段一段成長の階段を上っています。
 3月中旬以降、沖縄から始まった麻疹の流行が続き、愛知・神奈川・東京に広がり100名を超えています。かかった人は20~40歳代が多く、この世代は子どもの頃、麻疹ワクチンを1回だけで終了しているため免疫が十分ではありません。妊婦が感染すると早産や流産のリスクがあると言われていますので、大人も含めて2回接種をすることが大切です。1歳前のお子さんは、麻疹に対する免疫がまったくありませんので、1歳になったらすぐに麻疹ワクチンを接種しましょう。先月に引き続き今月も母乳についてお話します。

添い乳のすすめ

 母乳育児の場合、子どもが欲しがる度に授乳対応しなければならず、体力的にも慣れるまで大変です。特に夜中の授乳は負担が大きいです。昼間は座って授乳することは容易ですが、夜も同じようにすると体が持ちませんので、夜間は座って授乳をせず、寝ながらの添い乳がママの睡眠不足を多少和らげてくれます。うまくできない場合は昼間に添い乳をしてみて、お子さんに慣れてもらいましょう。

寝る前の授乳は虫歯になりやすい?

 虫歯は、食べ物や飲み物に含まれる砂糖(ショ糖)から虫歯菌が酸を作り、歯を溶かす病気です。母乳中に含まれるのはショ糖ではなく乳糖であり、虫歯の直接の原因にはなりません。虫歯の予防で大切なことは、少なくとも1日1回は歯みがきをして歯の汚れをしっかりと落とすことです。夕食後仕上げ磨きができていれば、寝る前の授乳後に歯みがきをする必要はありません。おっぱいを飲ませながらそのまま寝かせて大丈夫です。
 ちなみに、仕上げ磨きは嫌がる子どもが多いと思いますが、やさしく話しかけたり、楽しい歌を歌いながら笑顔で磨きましょう。また口の中を傷つけないために、保護者の膝の上に頭をしっかりのせて固定できる姿勢を保ってください。それでも嫌がる場合はあきらめず、力加減に気を付けたり、歯肉に強くあてないなど注意しながら習慣づけのために短時間で行ないましょう。

授乳中は薬を飲めるの?

 薬の説明書である添付文書には、多くの薬が授乳中は避けることと書いてあり、その通り対応すると授乳を止めなくてはなりません。しかし、アメリカやカナダの調査によると、薬を飲んだ母親の母乳を飲んだ子どもの血中濃度を測定したところ、安全なレベルの薬も多くあったことが明らかにされています。授乳中の服薬に熟知している医師(小児科医、産婦人科医など)に相談をしていただければ幸いです。授乳しながら、抗生剤・抗アレルギー薬・抗てんかん薬などが対応できる場合があります。

卒乳はいつごろ?

 授乳をやめる時期はよく質問されますが、時期は決まっていません。私はよく「ママが決めるといいですね。」と答えています。中には1歳になったら止めるべき、1歳過ぎて飲ませていると「まだやめていないの?」と言われたりするようですが、1歳でやめた方がいいことはありません。「1歳すぎると水と同じ!」なんて言う人もいますが、1歳すぎても母乳の成分は今までと同じ成分のままです。また1歳過ぎると、栄養的なことより、スキンシップの役割が強くなってきます。寝かしつけの時や不安になったり甘えたりするときに子どもが授乳を求めてくれば、自然に応じてあげて下さい。
 入園を機に母乳をやめるように言われる場合がありますが、やめる必要はありません。園に預ける前にたっぷりと飲ませて預け、帰ってきたらスキンシップも兼ねて授乳して下さい。授乳は子どもの精神的な安定に寄与します。昼間、胸が張る場合は職場にお願いし、授乳室を設けて搾乳をして乳腺炎を予防することも大切です。なお、WHO(世界保健機関)やユニセフでは、2歳かそれ以上まで母乳育児を続けることを勧めています。

参考文献

NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会ホームページ

http://jalc-net.jp/

ドクターKIRIKOのおっぱい育て ニライ社 桶谷桐子

日本小児歯科学会ホームページ

 桜も散り、春本番です。初夏を思わせる陽気になったり、気持ちのいい季節に入りました。うちは先月、18年間ずっと一緒だった第3子が県外の大学に通うため家を出ていきました。家を出る最後の日に「いろいろと面倒を見てくれてありがとう!」と言い残し旅立ちました。長いようで短い子育ての終わりです。
 先月から新しい朝ドラ「半分、青い。」が始まりました。そのヒロイン・鈴愛(すずめ)をご存知ですか?小学生の頃、おたふくかぜにかかり、左耳がまったく聞こえない状況に見舞われるも、いくつかの失敗を重ねながら、持ち前の明るさとユニークな発想力で人生を切り拓いていく人物です。片側だけしか聞こえない場合、大勢での会話ができない・スポーツを楽しめない・方向感覚が欠如する・聞き間違いをするなど生活に支障がでます。おたふくかぜにかかった片側の難聴は治療法がなく完治しません。おたふくかぜワクチン2回を接種することでこのような状況になることは避けられるため、お子さんの接種履歴を確認しましょう。
 今月は「1歳過ぎたらやめなさい」「3時間おきにおっぱいをあげた方がいい?」など周囲からいろいろと言われている母乳についてのお話をしたいと思います。

母乳と粉ミルクの違いは?

 粉ミルクは母乳に近づけるように作られており、いろいろな成分が母乳に似せています。ただ、どうしても作ることができないのが「免疫」です。この免疫が母乳には入っており、赤ちゃんから病気を守っています。母乳育児は人工栄養に比べて下痢・中耳炎・気管支炎などの感染症や喘息、アトピー性皮膚炎になりにくいというデーターが出ています。さらに肥満や糖尿病にもなりづらいとも言われています。子どもだけでなく、母乳育児をした母親は、出産後の出血量が少ない・子どもとの愛着が強くなる・乳がんや卵巣がんなどにもなりづらいということも言われており、母子両方にとってメリットがあります。
 また災害時、人工乳はお湯が必要で水があっても温める必要があります。母乳は準備が必要なく、スムーズに飲ませることができます。母乳は災害に強いです。

母乳が足りている?

 母乳がどのくらい出ているのかを正確に測ることは難しく、赤ちゃんが満足しているのか気になるものです。一般的に、赤ちゃんが元気でおっぱいをゴクゴク飲んでいる音が聞こえていれば、十分な量の母乳を飲めていることが多いです。1日に紙なら5枚以上おむつがびっしょり濡れていて、色が薄く臭いも強くないことが目安になります。飲んだ後にまだ欲しそうにしている場合は足りていないかもしれません。授乳の回数や間隔は個人差があり、1日8回から12回以上あげて構いません。間隔は3時間待った方がよいかと聞かれることもありますが、10分後に欲しがったとしても授乳しても構いません。授乳が足りているか、気になる場合は助産師さんやかかりつけの小児科医に相談をしましょう。

授乳のタイミングは?

 みなさんはいつごろ授乳をしていますか?泣いたときは遅いサインと言われ、泣いている時にあげようとするとうまく飲んでくれない場合もあります。体を
 もぞもぞと動かす・手や足を握りしめる・手を口や顔にもっていく・おっぱいをすうように口を動かすなどが空腹のサインと言われています。このことを1989年、WHO(世界保健機関)とユニセフから発表された「母乳育児成功のための10か条」に謳われています。この10か条の中には、赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ授乳をしましょう・母乳で育てている赤ちゃんには人工乳首やおしゃぶりを与えないようにしましょうなどが書かれています。
 最後に、私も会員になっているNPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会は母乳育児支援を行なう団体で産科医・助産師・小児科医などで構成され、学習会をしたりしています。この協会は科学的根拠に基づいた情報を発信していることが特徴的です。

参考文献

NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会ホームページ
http://jalc-net.jp/
ドクターKIRIKOのおっぱい育て ニライ社 桶谷桐子

 

 ようやく春がやってきました。先月はうちの四男(中3)の卒業式に出席しました。式は粛々と進み、卒業生からの歌が披露されました。歌が始まった途中から、女子だけでなく2~3割の男子までもが号泣しながら歌う姿を目にしました。私たち親も感無量の式になりました。本当によい卒業式をしていただき同級生の仲間と学校の先生方には感謝しています。
 今月は、3年前にこの誌面で、不法滞在の母親の元に日本で生まれ育ったウォン・ウティナンさんが退去強制処分を受け、処分取り消しを求めて提訴することと、署名とご寄附のお願いをさせていただきました。もうすでに報道もされてご承知の方も大勢いらっしゃるかと思いますが、その後の経過をご報告いたします。

これまでの経過

 彼は、2011年山梨県の新しい公共支援事業(外国籍不就学児童調査)で、就学していない子どもであることが判明し、それ以後県の事業とボランティアの学習支援を受けていました。5年前の2014年三男が中2の時に同じ学年の同じクラスに彼が入学してきました。その後、本人から退去強制処分を受けているので、処分取り消しのために力を貸してほしいとの話があり、同級生や私も含めた保護者が中心となって「ウォン・ウティナンさんを支える会」が立ち上がりました。これまではずっと母と一緒に生活をしていましたが、昨夏母はタイに退去させられたため、本人は支援者の元で高校生活を送ることになりました。

私も裁判を傍聴

 裁判のために、本人と支援者は6回に渡り東京高等裁判所に足を運びました。毎回20名近く、多い時は50名以上の参加がありました。私も休診日に1度だけでしたが、支援者の方々と一緒に貸切バスで傍聴しに行きました。東京高等裁判所に入ったことがなかったため、傍聴人という立場だけなのにかなり緊張しました。裁判所は入る際に空港の搭乗検査と同じ持ち物検査などがあり、改めて特別な場所だと感じました。裁判は思ったより短時間で淡白な印象でした。次回の日を決めて終了し、彼と世話人と担当の弁護士さんが出席した記者会見も傍聴しました。本人が悪いことをしたわけでもなく、まだ20歳にも満たない彼が裁判を受けなければならないことを考えると、本当に大変なことだと感じました。第4回目の裁判は、同級生が傍聴できるように県民の日に行われ、多くの同級生が裁判所に行きました。午後からの裁判だったため、午前中は裁判所の見学を計画し、当時高校1年生であった三男は貴重な学びを得たようでした。傍聴席は学生で満席となり、他の支援者は傍聴できない程でした。このことは裁判官に、彼が学校や地域の人たちと一緒に仲良く生活しているという印象を強く与えたのではないかと思いました。
 しかし、結果は一・二審敗訴。上告を取り下げ、東京入管に再審査を求め、暗い雰囲気が漂っていた最中、昨年12月突然「在留特別許可」が下りました。これは「日本に住み続けることが出来る」を意味することで安堵することができました。

支える会を通じて学んだこと

 バザーなどの活動を通じながら、署名1万5,000筆、200万円を超えるカンパを集めることができました。多くのご支援に改めて感謝します。三男の同級生に彼がいたことで、署名・カンパ、裁判などを通じて、地区の方々と力を合わせた4年間、私自身も「子どもの権利条約」や「日本の難民の受け入れについて」などについて考えさせられました。また、核家族化や個人主義が進んでいるように感じていたのですが、心が通じ合う仲間がいること、合わせて1人1人の力は小さくとも皆で力を合わせれば、大きな力になることを学びました。先月23日には、これまで支援してくれていた三枝亭二郎さんの落語会とともに支える会の解散式が行われました。カンパの主な出費は裁判費用として使い、残金は学費、予防接種代、日本語検定の資格試験費用、タイにいる母に報告する旅費、運転免許取得のための教習所代などの補助として使わせていただく予定です。予防接種に関してはこれまで全く接種していないため、今月から10数回にわたる接種を予定しています。また先日住民票のある自治体で母子手帳ももらうことができました。この点については、私は専門としているので彼が日本で生活していく上で不安がないように提案しました。彼はバイトをしながら残り1年の高校生活を送っています。また一人暮らしの準備も始まっています。彼が希望する日本での生活を共に見守っていただけたら幸いです。

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