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院長コラム

ウォン・ウティナンさん

小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。

 ようやく春がやってきました。先月はうちの四男(中3)の卒業式に出席しました。式は粛々と進み、卒業生からの歌が披露されました。歌が始まった途中から、女子だけでなく2~3割の男子までもが号泣しながら歌う姿を目にしました。私たち親も感無量の式になりました。本当によい卒業式をしていただき同級生の仲間と学校の先生方には感謝しています。
 今月は、3年前にこの誌面で、不法滞在の母親の元に日本で生まれ育ったウォン・ウティナンさんが退去強制処分を受け、処分取り消しを求めて提訴することと、署名とご寄附のお願いをさせていただきました。もうすでに報道もされてご承知の方も大勢いらっしゃるかと思いますが、その後の経過をご報告いたします。

これまでの経過

 彼は、2011年山梨県の新しい公共支援事業(外国籍不就学児童調査)で、就学していない子どもであることが判明し、それ以後県の事業とボランティアの学習支援を受けていました。5年前の2014年三男が中2の時に同じ学年の同じクラスに彼が入学してきました。その後、本人から退去強制処分を受けているので、処分取り消しのために力を貸してほしいとの話があり、同級生や私も含めた保護者が中心となって「ウォン・ウティナンさんを支える会」が立ち上がりました。これまではずっと母と一緒に生活をしていましたが、昨夏母はタイに退去させられたため、本人は支援者の元で高校生活を送ることになりました。

私も裁判を傍聴

 裁判のために、本人と支援者は6回に渡り東京高等裁判所に足を運びました。毎回20名近く、多い時は50名以上の参加がありました。私も休診日に1度だけでしたが、支援者の方々と一緒に貸切バスで傍聴しに行きました。東京高等裁判所に入ったことがなかったため、傍聴人という立場だけなのにかなり緊張しました。裁判所は入る際に空港の搭乗検査と同じ持ち物検査などがあり、改めて特別な場所だと感じました。裁判は思ったより短時間で淡白な印象でした。次回の日を決めて終了し、彼と世話人と担当の弁護士さんが出席した記者会見も傍聴しました。本人が悪いことをしたわけでもなく、まだ20歳にも満たない彼が裁判を受けなければならないことを考えると、本当に大変なことだと感じました。第4回目の裁判は、同級生が傍聴できるように県民の日に行われ、多くの同級生が裁判所に行きました。午後からの裁判だったため、午前中は裁判所の見学を計画し、当時高校1年生であった三男は貴重な学びを得たようでした。傍聴席は学生で満席となり、他の支援者は傍聴できない程でした。このことは裁判官に、彼が学校や地域の人たちと一緒に仲良く生活しているという印象を強く与えたのではないかと思いました。
 しかし、結果は一・二審敗訴。上告を取り下げ、東京入管に再審査を求め、暗い雰囲気が漂っていた最中、昨年12月突然「在留特別許可」が下りました。これは「日本に住み続けることが出来る」を意味することで安堵することができました。

支える会を通じて学んだこと

 バザーなどの活動を通じながら、署名1万5,000筆、200万円を超えるカンパを集めることができました。多くのご支援に改めて感謝します。三男の同級生に彼がいたことで、署名・カンパ、裁判などを通じて、地区の方々と力を合わせた4年間、私自身も「子どもの権利条約」や「日本の難民の受け入れについて」などについて考えさせられました。また、核家族化や個人主義が進んでいるように感じていたのですが、心が通じ合う仲間がいること、合わせて1人1人の力は小さくとも皆で力を合わせれば、大きな力になることを学びました。先月23日には、これまで支援してくれていた三枝亭二郎さんの落語会とともに支える会の解散式が行われました。カンパの主な出費は裁判費用として使い、残金は学費、予防接種代、日本語検定の資格試験費用、タイにいる母に報告する旅費、運転免許取得のための教習所代などの補助として使わせていただく予定です。予防接種に関してはこれまで全く接種していないため、今月から10数回にわたる接種を予定しています。また先日住民票のある自治体で母子手帳ももらうことができました。この点については、私は専門としているので彼が日本で生活していく上で不安がないように提案しました。彼はバイトをしながら残り1年の高校生活を送っています。また一人暮らしの準備も始まっています。彼が希望する日本での生活を共に見守っていただけたら幸いです。

今月はとにかく寒く、早く春よ来いと願うばかりです。我が家では5人の子どものうち3人が大学や高校の受験を迎え、いつになくせわしなくなっています。親としてどう声をかけたらよいか気を使い、一方で2歳の娘の遊び相手をしながら過ごしています。

 現在、インフルエンザの流行期に入っています。一番の予防は手洗い・うがいで、マスクも効果があります。体調が悪い時、無理して園や学校に行くことで他人に広げることもあるためお休みしていただくとありがたいです。今月は医療から少し離れた話です。先月、山梨日日新聞(12月6日)に記事が載ったのでご存知の方もいるかもしれませんが、退去強制処分を受けたタイ人の中学3年生が処分取り消しを求めて提訴します。市民の有志が裁判を支援する組織を設立し署名などの活動をしています。賛同していただける方はぜひ署名とご寄附をお願いします。

 

ウォン・ウティナンさんの生い立ち

三男(中3)が通っている甲府市立南西中学3年に在籍しているウォン・ウティナンさんという生徒がいます。彼は不法滞在の母親の元に日本で生まれ育ちました。父母はタイ国籍の超過滞在者であり、父親は強制送還されています。母親は入管の摘発を恐れ、彼とともに各地を転々として過ごしてきました。そのため彼は小学校に入学出来ず、公教育を受けることができませんでした。2010年、山梨県が新しい公共支援事業で実施した「外国籍不就学児童調査」で彼が不就学状態にあることが判明し、県の事業とボランティアの学習支援を受け、週3~4回程度の学習支援を受けて、2013年4月から同中学2年に入学していました。彼は本当に努力家で、小学校教育を受けなかったにもかかわらず、中学校の2年間で学力的には高校に進学が可能な段階にまで至っています。多くの友人や先生、同級生の父母の支援にも恵まれ、演劇部やバスケット部に所属し、体格的にも年齢に応じた成長がみられています。

 

ウティナンさんからの手紙

 手紙の全文は長文のためコラムに掲載ができません。私は読んでいて胸を打たれました。ぜひ皆さんにも読んでいただきたいです。手紙の要旨は以下の通りです。「私は父親の記憶がまったくありません。母親の友達の子どもと遊んでいましたが、自分以外は小学校へ行っていました。学校というところへ行きたい気持ちはありましたが、ひとりでテレビを見ながら過ごしたりして、ビデオやテレビで日本語を覚えました。12歳になりオアシス子ども会で勉強をし、勉強が楽しくなり、中学校へ通うようになったことから、学校が本当に面白いところだと感じました。私は一度もタイに行ったこともなく、自分はずっと日本人だと思っていて、タイに帰れと言われても帰るところは日本だと思っています。私は在留資格を取り、今春から定時制の高校に通ってお母さんを助けたい、そして自分と同じように困っている人がいたら手助けできる人間になりたいです。」

 

私も応援しています

 私が初めて彼と会ったのは、昨シーズンに彼がインフルエンザにかかり、診察をさせていただいた時です。諸事情を知っていたので、無償で対応させていただきました。また、これまで息子と同じバスケット部の試合で楽しそうに過ごす様子や、演劇部の劇で生き生きと演じている姿を見ています。私も周囲も感じているのが、母親の元で愛情豊かに育ったことで、素直な良い少年に育っているということです。今回、彼と母親が退去強制処分を受けたことを知って、他人事とは思えない気持ちになりました。もし自分がそんな境遇として生まれてきたらどんな気持ちになるでしょう。行ったこともないタイへ行くことが本人の幸せになるのでしょうか?在留許可をあたえてもらうためにみなさんの署名と寄付が必要です。

 今後、市民有志による「ウォン・ウティナンさんの裁判を支える会」主催で2月11日午前11時から催されるチャリティバザー(下石田フォネット駐車場)・3月1日に開かれるチャリティ落語(ヴァンフォーレ甲府スタジアムDJのJIROさんが三枝亭二郎の名で出演)にて署名や寄付を募っていきます。なお、ウォン・ウティナンさんへの署名、手紙の全文、新聞記事は山梨外国人人権ネットワーク・オアシスのホームページ(http://yamanashi-oasis.seesaa.net/)を参照ください。

ぜひともご理解・ご協力いただけますようよろしくお願い致します。

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