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院長コラム

ハンセン病

小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。

先月、北海道で行方不明になっていた大和君が6日ぶりに発見されました。発見されるまで心配でしたが、無事で安心しました。今回、みなさんもしつけについて考えるきっかけになったのではないでしょうか。

まもなく4歳になるうちの娘は自分から三つ編みを母にせがむようになり、鏡をみながら「かわいい?」と私たちに聞くようになりました。女の子としての成長を感じています。反面1日1回大泣きする場面があります。寝る前の仕上げ磨き時、私が体を抑え、妻が歯磨きをし2人がかかりです。5人目の子育ての余裕からこれも子育てのよい思い出になると思いながら格闘していますが初めての子育てを一人で奮闘している親御さんにとっては、憂鬱な時間となっているでしょう。皆同じことで悩んでいます。決して一人ではありません。

 今春、ハンセン病患者が当事者となった裁判を裁判所外に隔離して設置された「特別法廷」で審理した問題について、最高裁判所が違法だったと認めたという報道がありました。今月は「ハンセン病」についてお話します。

 

ハンセン病とは

 ハンセン病は「らい」菌に感染することで起こる病気で、遺伝病ではありません。紀元前4000年前「ハンセン病」について書かれており、大昔から存在していた病気です。古来は「らい病」と言われていましたが、差別的に感じる人も多いため、らい菌を発見したノルウェーの「アルマウェル・ハンセン医師」に由来し、ハンセン病と言われています。

治療薬がない時代は顔や手足に変形を残すことがあり、治っても重い後遺症を残していました。治療薬がある現在は、早期発見と早期治療により後遺症を残さずに治るようになりました。また、十分な栄養をとることができ、衛生的な社会である日本では発病することはほとんどなくなりました。国内における新規患者数は年間0~数人で、その多くは高齢者です。

 

歴史から学ぶこと

 日本のハンセン病対策は、1897年(明治30年)の第1回国際らい会議でハンセン病の予防には隔離が必要であると言われたことから、患者の隔離が始まりました。1907年(明治40年)らい予防法の前身となった法律である「らい予防に関する件」が制定され、さらに1931年(昭和6年)、「らい予防法」に改正され、患者をハンセン病療養所に強制的に入所させました。患者の出た家を真っ白になるほど消毒をしたり、ハンセン病は国の恥・恐ろしい病気という意識を国民に植え付けました。一方で国際的には治療薬も開発され、治る病気ということがわかり、1940年代に入ると隔離の必要性が低いと認識されるようになりましたが、日本では国や医学会はその事実を知りながらも、1996年(平成8年)まで隔離政策を続けたのでした。このため、社会には根強いハンセン病への差別・偏見が残りました。

 

差別・偏見によって

 強制的に入所させられた療養所は患者が外に出ないように高さ2メートル余りの壁が張り巡らされていました。一生出て暮らすことができず、もちろん親や兄弟と暮らせず、結婚しても子どもを産むことが許さず、死んでも故郷の墓に埋葬してもらえませんでした。1951年(昭和26年)山梨県で長男がハンセン病と診断されたのを苦にして一家9人が青酸カリによる心中したあまりにも痛ましい事件が起こりました。

犯罪に関わった場合、非公開での特別法廷で裁かれており、判決は公平性を欠いていた可能性があります。1952年(昭和27年)熊本県で起きた殺人事件でハンセン病の被告が無実を訴えたものの死刑判決が確定し10年後に死刑が執行されました。この被告は公開の法廷に立つことは一度もなかったそうです。

私は今春、沖縄県にある療養所を見学させていただきました。その療養所は町から遠く離れた場所にあり、未だ帰る場所がない高齢の方が住んでいました。療養所に併設された資料館にて語り部の方から様々な話を聞くことができました。山梨県の近くにも国立ハンセン病資料館(東京都東村山市)があります。ぜひ見学に行かれることをお勧めします。

 

映画「あん」を鑑賞

 昨年、妻とこの映画を鑑賞してきました。どら焼き屋の雇われ店長と元ハンセン病患者の老女との交流と別離を描く作品で、ハンセン病患者が世間の偏見・不当な差別を受けながら生きる姿が映し出され、人間の生きる意味について考えさせられました。

 繰り返しになりますが、ハンセン病は遺伝病ではなく、現在の日本においては新規の患者はほとんどおらず、通常の生活で感染することがほとんどありません。私たちにできることはハンセン病について、正しい知識と理解を持つことで、差別や偏見をなくすことが大切です。そして医療従事者は、正しい医療知識を皆さんに提供する役割を決して忘れてはならないということを痛感するのです。

 

参考文献

国立ハンセン病資料館ホームページ

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