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院長コラム

 まもなく、梅雨が明け、真夏に突入です。しかし、未だコロナ過のため自粛しながら生活しなければならず、気持ちがすっきりしませんね。

うちの娘(小3)は学年が上がってすぐ運動会の練習が始まり、本番の日に雨が降らないようにてるてる坊主を作ったり、自宅で踊りの練習をしたりと運動会が終わる5月末まで運動会モードでした。当日は半日だけの開催でしたが天候にも恵まれて、無事終了しました。一方結果は、娘の赤組は負けで、3年連続負けているとがっくりしていましたが、親子共とても楽しむことができました。コロナ過とは言え、今後も子どもの行事は感染対策をしながら実施していただくことを望みたいです。

 コロナ終息へ向けて新型コロナワクチン接種が医療従事者や高齢者だけではなく、広がり始めています。私は5月中旬に新型コロナワクチンの2回目を接種しました。1回目より2回目に副反応が出やすいという話を聞いていました。実際は1回目より多少、接種部位の腫れや違和感、重たい感じがありましたが熱は出ませんでした。うちのクリニック勤務の20代ナースは接種翌日39度台の熱が出ました。国内の医療関係者約2万人の調査から、接種部位の痛みなどの頻度は高く、若年者の方が高齢者より接種後に発熱・全身倦怠感・頭痛などの全身反応を認める割合が高いことが明らかになっています。これから接種の予定にある方は、接種翌日の生活負担を軽減させながら進めていただければと思います。

 先月、全国医療的ケア児者支援協議会が6年間訴え続けてきた「医療的ケア児及びその家族に関する支援に関する法律」(以下、医療的ケア児支援法)が可決されました。今回はこの法律が成立した経過や現状について、皆さんに知っていただきたいのでお伝えします。

 

医療的ケア児支援法とは

 人工呼吸器や胃ろう等を使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子どもたちのことを「医療的ケア児」と言います。この医療的ケア児は全国で約2万人(厚生労働省報告)、医療技術の進歩で10年前の2倍に増加しています。その家族は日々のケアで疲弊しており、その上医療的ケアがあるため保育所で受け入れてもらず、学校へは親の付き添いが求められています。結果として保護者の離職につながり、家族にとって経済的にも精神的にも大きな負担となっているのが現状です。

 この法案の目的は「医療的ケア児の健やかな成長とともに、その家族の離職を防止し、安心して子どもを生み、育てることができる社会を実現すること」、さらに「医療的ケア児やその家族に対する支援は医療的ケア児の日常生活や社会生活を社会全体で支えること」と明記されました。具体的には、保育者や学校などに通う機会が平等に得られるように、保護者の付き添いなしで医療的ケアを行う看護師らの配置をすること、県に相談や情報提供を行う「医療的ケア児支援センター」の設置をすることを求めています。法律が施行されることにより、これまでは自治体の「努力義務」から「責務」に変わりました。この法律により、医療的ケア児とその家族が生活しやすくなることに繋がると考えられます。

 

安心して生み、育てられる社会に向けて小児訪問診療から見えること

 私は自分のクリニックに医療的ケア児を昼間預かる施設を併設し、かつその子たちの訪問診療に従事し、日々母親を中心とした家族の声を聞いています。主の介護者である母親の声からは、日々のケア・子どもの急変・通院やリハビリ・医療的ケア児の兄弟や夫婦関係などの対応で疲労が溜まっていることが感じられます。そのため母親は自分自身の身体や心の状況まで考えられない状態です。この法律をきっかけに県内にいる100名弱の医療的ケア児とその家族を社会全体で支えていくしくみを作ってもらえたらと願っています。この法律には「医療的ケア児やその家族の意思を最大限に尊重すること」が記されています。医療的ケア児やその家族の声を聞き、制度化されることを切望します。保育所や学校への看護師配置の具体策として、先進的な地域ではそのお子さんのケアに精通している訪問看護ステーションの看護師を学校に派遣している事例もあり、地域の実情にあった体制づくりが求められます。

 妊娠経過が問題なく、出産時のトラブルで医療的ケアが必要になるお子さんが生まれる場合も少なくなく、他人事ではありません。県内で生まれたどんなお子さんも安心して生活でき、親亡き子の生活まで社会全体で体制作りを考えていただきたいです。

コロナがなかなか落ち着かない中、医療従事者と高齢者が対象で新型コロナワクチンの接種が始まりました。私も先月、1回目の接種をしました。接種した当日は痛みもほとんどありませんでしたが、翌日、接種した部位の痛みがあり、2日後にはその痛みもなくなりました。2回目の接種の方が副反応は強くでるそうで気になっています。

5月15日、厚労省から新型コロナウイルスに感染した子どもたち(1662例)の詳細が発表されました。これによると、約半数が無症状で、9割が治療することなく回復、感染経路は7割が家庭内感染、そのうち半数が父親からの感染で、変異株でも同様な傾向であったという結果でした。安心は禁物ですが、子どもに感染させないようにするには、私たち親が感染に気をつけることが大切だと考えられます。

コロナ禍も加わり腹痛・頭痛などの症状があり、学校に行きたくないと訴え、うちのクリニックに相談に来るケースが増えています。学校に行きたくない理由の一つとして「給食時間の悩み」があります。今月はこの給食の悩みについて取り上げてみたいと思います。

 

学校給食について

平成31年3月文科省からに発表された「食に関する指導の手引き」によると、学校給食とは児童生徒の心身の健全な発達や食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で重要な役割を果たすものであり、さらに給食時間は児童生徒が友達と担任などと和やかで楽しく会食する時間で、ゆとりある落ち着いた雰囲気で食事ができるように、日頃から安心して食べられる環境を整えることが大切であると書かれています。つまり、給食は「楽しく食べて、食事の大切さを学ぶ場」です。

 

あるお子さんのケース

 楽しいはずの給食が、お子さんによっては嫌な時間に変わる場合もあります。先月末、クリニックに相談に来られた小1の女子の話です。学校に行く日になると朝から腹痛が続いていましたが、何とか登校をしていたそうですが、とうとう学校に行けなくなり、受診に至りました。話をよく聞くと、給食を全部食べなければならず負担になっていることがわかりました。私は母に「本人が食べられる分だけお皿に盛ってもらう」ように学校に伝えるように話をしたところ、本人も安心したようで笑顔で帰りました。その後、学校側も快く量を減らし対応していただき、以後腹痛もなく学校へ行けています。このようなケースは珍しいことではなく、度々経験します。

 

食べることを強制せず、楽しい時間に

給食時間の気になることは、教師からクラス全体で給食を残さないように強制されたり、自分の量が食べ終わるまで給食後も居残って食べなければならないことがあります。担任が変わると、居残り食べずに済んでホッとしたことも聞きました。お子さんは体格などの個人差があり、食べる量が違うので、行き過ぎた指導は子どもたちへの負担となります。あまり食べられない人は盛る量を少なくしてもらう方法が得策です。子どもから給食の様子の話を聞き、ご両親から先生に伝えてもらえるとお子さんも安心して学校生活を送ることができます。

また、発達障害のお子さんや発達に特性があるお子さんの中には触覚や嗅覚などの感覚の過敏さで偏食がみられる場合があるため、特性を受け入れ配慮していただけたらありがたいです。また、食事量が極端に少ない場合や体重減少もみられる場合は摂食障害の可能性もあります。この場合は医療機関に相談をすることが大切です。

クラスへ配膳された給食を食べ残さないように指導することは大切ですが、強制になってはいけないので、毎日食べ残してしまうなら、クラスに割り当てる量全体を減らしてもらうことは難しいのでしょうか。無理なく食べ切ることを学校全体で考えてもらえるとありがたいです。無理に食べさせると、嘔吐・腹痛から発展し、不登校・摂食障害・心的外傷後ストレス障害(PTSD)になる場合もあります。逆によく食べるお子さんは「子どもの貧困」があるかもしれません。子どもの貧困は見えづらいと言われます。給食の時間等を通じて担任の先生が気づき配慮していただけたら幸いです。

給食は和やかで楽しい時間であることを忘れてはならないと思います。一方で、コロナ禍にある給食時間は和やかで楽しい雰囲気を作ることが難しいかもしれません。集団生活の中で唯一マスクを外すことができる時間に、先生が和やかに美味しそうな表情で食事をしていることは、子どもたちに安心感を与えることになります。

 

参考文献

食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月):文部科学省 (mext.go.jp)

新型コロナウイルスの小児への 影響の解明のための研究

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000779606.pdf

 

 暖かくなり新緑が満ち溢れ、生命の躍動を感じられる頃になりました。

先月、私は昭和町で新型コロナワクチンの集団接種に向けたシュミレーションに参加してきました。町内の医療機関で働く医師・看護師、行政の担当者、地区のボランティアの方々と本番に備えた対応を行いました。今まで経験をしたことがない集団接種は皆が慣れていません。混乱も予想されますが、何卒ご理解とご協力をお願いします。新型コロナワクチンを多くの方が接種することで一日でも早いコロナの終息を期待します。

 3年前にお子さんへのスマホの対応についてのコラムでお伝えしたところ、予想以上の反響がありました。診療で相談を受けることはもちろんのこと、さらに県外からのテレビ局からの取材依頼があり、関心が非常に高いことがわかりました。今月はスマホと上手に付き合っていく方法についてお話します。

 

スマホ育児は要注意!

日本小児科医会から「ムズかる赤ちゃんに子育てアプリの画面で対応せず、赤ちゃんと目と目を合わせ、語りかけることで赤ちゃんの安心感と親子の愛着が育まれること」「親も子どももメディア機器の接触時間を減らし、絵本の読み聞かせをすることで親子の会話や体験を共有することで親子の育ちになること」「外で遊んでいても親がスマホに夢中にならず、一緒に遊ぶことで子どもの体力や運動能力そして五感や共感力を育むことができること」などが提唱されています。

健全な子どもの成長にとって、スマホとなるべく接触を控える工夫が大切です。子どもたちはスマホなどのメディア機器を食い入るように見てとても楽しみ、止めると大泣きしてしまうため、親はついつい見させてしまいます。スマホが身近であると、将来的なゲーム障害・不登校・引きこもりなどに発展していきます。ゲーム障害へ向かうお子さんは現実生活が充実せず、現実逃避としてスマホへ依存していきます。

 

スマホ時間を減らすには

スマホをやめなさいと注意しても子どもは聞かず、スマホ時間が長時間に及んでしまいます。スマホ時間を減らすためには、スマホ以外の時間を親子で共有することが大切です。お勧めしたい例として、食事中は食卓にスマホは置かず、テレビを消して親子の会話を楽しんでください。食事の準備や片づけ・ゴミ捨て・新聞を取ってくる・洗濯物を干すなどのお手伝いをしてもらい、1人でできない場合は親子で実践していいと思います。お手伝いが終わったら、褒めることで親子関係がグッと良くなり、お子さんの自己肯定感の向上に繋がります。うちの娘(小3)は洗濯物を私と一緒に干す、朝刊を1人で取りに行くお手伝いをしています。

 

スマホ時間が長いと学力が低下する

 東京都の調査(令和2年)でスマホの所有率が小学校低学年19%、小学校高学年35%、中学生75%、高校生92%でありました。東京都の調査ではありますが、山梨県内でも同等の割合で所有しているのではと思います。

 仙台市の児童7万人を対象に東北大学の川島隆太先生が行った結果によると、スマホの使用時間が平日1時間を超える児童・生徒では学力が使用時間と相関して低下することがわかりました。このことからスマホの使用時間を平日1時間以内に留めることが学力を保つことに大切であることがわかります。

 日常生活よりゲームを優先する状態などが1年以上続く「ゲーム障害(依存症)」を防ぐために、2020年4月、香川県で全国初となる「ネット・ゲーム以前症対策条例」が施行されました。18歳未満を対象にゲーム利用時間を1日60分、休日は90分まで、スマホの利用時間を中学生以下が午後9時まで、高校生は午後10時までにすることが骨子であります。韓国や中国でも未成年者には同じような規制ができています。今回、行政の方で目安を出したことはとても大切なメッセージになったと思います。親子だけでスマホの使用についてルールを決めるのは難しく、この条例のような目安があるおかげで、ルールも決めやすくなったのではないかと思います。ちなみに、うちのルールは娘に宿題を終えてからスマホのゲームは1日15分までと決めています。

 

スマホ時間が長時間になったら

 親子で決めたルールが守らない場合は、スマホを強制的に没収したりしても効果は薄く、親への暴力が生まれ、解決にはなりません。お子さんの現実生活で困り感について取り除くことが大切です。親子だけで解決することは難しいので、ゲーム障害・不登校・引きこもりになる前に、家庭だけで対応せず、学校や医療機関に相談をして一緒に考えていくことがとても大切です。

 

参考文献

日本小児科医会ホームページ 子どもとメディア委員会

http://www.jpa-web.org/about/organization_chart/cm_committee.html

スマホゲーム依存症 内外出版社 樋口進

 今月は命の大切さについて考えてみたいと思っています。令和3年2月16日付山梨日日新聞で「子ども自殺最多479人に」という記事を目にしました。子ども自身が大切な命を自分の力で閉じてしまう「自殺」に関して、皆で向き合っていくことが大切ではないかと思っています。

 

子どもの自殺は増えている

 下記の表のように、山梨県内で5年間(2014~2018年)、自殺した子ども(0~18歳)は12人、うち15~18歳が9人います。現状では県内で1年間の子ども自殺者が約2~3人いて、中高校生が多いという結果です。

 全国の自殺者数は2010年から減少傾向にあり、2020年の自殺者数は20,919人でした。しかし少子化にも関わらず10代は増加して、令和2年の小中高生の自殺者数は479人(前年比140人)という結果でした。前年から140人増加していることはコロナ過であることが影響しています。数が多い大人の自殺に関しては社会問題となり減少傾向に向かっています。しかし、子どもの自殺に関しては、いじめに関連した自殺があると多く報道され関心の高まりはありますが、一般的には「子どもの自殺が増えている」ことに関しての社会的な関心が低いのが実態です。

 

山梨県(2014~2018年)・全国(2020年)自殺者数

山梨県内

2014~2018年

5年間

0~18歳

(15~18歳)

12人

(9人)

全国

2020年

全年齢

(小中高生)

20,919人

(479人)

2019年比 小中高生 140人増

 

自殺に追いつめられる子どもの心理

 自殺はある日突然、何の前触れもなく起こるというよりも、長い時間かかって徐々に危険な心理状態に陥っていうのが一般的です。「誰も自分のことを助けてくれるはずがない」というひどい孤立感、「私なんかいない方がいい」という無価値観・強い怒り・苦しみが永遠に続くという思い込み・心理的視野狭窄が挙げられています。こうした子どもの心理を知り、子どもが発している救いを求める叫びに気づいてください。自殺が現実に起きる前に子どもは必ず「助けて!」という必至の叫びを発します。その子どもに近い友達・家族・教師が耳を傾ける必要があります。

 

学校でできること 

 中学・高校教師の5人に1人は生徒の自殺に、3人に1人は自殺未遂に遭遇したことがあるという調査結果があります。つまり、子どもの近くにいる教師は生徒の自殺・自殺未遂に関わることがあり、切実な問題です。子どもの自殺はいじめが原因と思われがちですが、他の世代に比べて遺書が残されていないことが多く、原因が特定されない場合も少なくありません。子どもと信頼関係が成り立っていると、子どもから「死にたい」と言われることがあります。その際にはまず自分だけで抱え込まず、周囲の教師と話をして学校全体で受け止めることが必要だと思います。そのためにも、日頃から自殺の知識を身に付けながら対応していくことも大切です。さらに、保護者や医療機関などと連携をして組織的に対応することが求められます。決して1人で抱え込まないでください。

 

「死にたい」と訴えられたら

 訴えられた人は強い不安に襲われると思いますが、Tell(伝える)・Ask(尋ねる)・Listen(聴く)・Keep safe(安全を確保する)という「TALKの原則」で対応してください。「大丈夫、頑張れば元気になる」といった励ましや「死ぬなんて馬鹿なことを考えるな」といったように叱ると、せっかく開き始めた心が閉ざされてしまします。徹底的に聞き役に回ってください。

 このような場合、学校と保護者だけでの対応には限界がありますので、医療機関へつなげていくことも大切です。本人や保護者が心療内科や精神科への受診に抵抗があるようなら小児科等かかりつけ医へ相談をするような話をしてもいいのではないかと思います。学校側から保護者に医療機関への受診を促しても「家族の問題に口を挟まないでほしい」と言われる場合もあるでしょう。

1~2回の働きかけで諦めず、学校側からの思いを保護者や本人に伝えていただけるとありがたいです。一番は本人のこれからを見守る視点に立って働きかけていただきたいと思います。

 

親ができること

 私も以前に中学生から直接「死にたい」という言葉を告げられました。あまりない経験なので、強い不安がありました。本人からの話を聞き、自分だけで対応することが難しかったため、精神科に受診を勧めた経験があります。   そのケースでは、家族がお子さんの安心基地でないこともわかりました。自殺に追いつめられるお子さんは家庭が安心基地でないこともあります。適切に養育できない環境下では子どもの自殺リスクが高まります。家庭内の養育力が脆弱な場合、子どもが安心して生活できるような家庭を築けるようなサポートが求められています。家庭の中だけで対処しようとせずに、学校や医療機関などに相談をしていただくことをお勧めします。

 

参考文献

文部科学省:教師が知っておきたい 子どもの自殺予防 2008

文部科学省:子供に伝えたい自殺予防 2014

 今年は例年と違う静かな年末年始を過ごしたのではないでしょうか。我が家は密を避けながら初詣に行き、私が引いたおみくじがなんと大吉でした。コロナ禍での暗い気持ちを吹き飛ばす結果となり、前向きな一年になりそうな感じがしました。コロナ禍で子どもたちもいろいろと制約を受け、楽しみにしている修学旅行や成人式などの行事が中止となり、何もできないストレスが積み重なっていることが大変気になります。大人も子どもも息抜きをしながら日々の生活を送っていきましょう。

 1月16・17日に全国病児保育協議会が主催する研究大会が行われました。緊急事態宣言下のため、WEBのみで開催され、私は当院の看護師・保育士のスタッフと一緒に自分のクリニック内で画面を通して聴講しました。WEB開催は開催地へ出向く手間がないメリットはありますが、画面を通してのみだと、場の雰囲気や同じ病児保育に従事している全国の仲間と会う機会が失われ、寂しく感じました。その研究大会の講演で国立成育医療センター「もみじの家」ハウスマネージャーの内多勝康様(元NHKアナウンサー)による「医療的ケアがあっても安心して暮らしたい」という講演がありました。今月は皆様にその内容をお届けします。

 

「もみじの家」って

 2016年春、全国の子ども病院の中心的な存在である国立成育医療センター(東京)の敷地内に在宅で医療的ケアを受けている子ども(医療的ケア児)と家族を支える短期入所施設「もみじの家」が開設されました。「重い病気を持つ子どもと家族のひとり一人がその人らしく生きることができる社会を創る」という理念を掲げています。親子でもお子さんだけでも宿泊ができ、24時間看護師が親に代わって経管栄養の注入や痰を吸引するなどの医療的ケアを担当することで、その家族(特に母親)の疲弊を軽減し家族の休息(レスパイト)を提供しています。もみじの家での生活は保育士さんが日中活動(遊びや学びの)を行います。利用者である両親からのアンケート調査から利用したお子さんのQOLが向上し、遊び・学びが大切であることが報告されています。医療的ケアだけでなく、遊び・学びも加えることでお子さんやご両親の満足度が高く、希望をお断りするような状態だそうです。

 一方で課題は運営が安定せず、赤字が年間2000万円以上あることで、赤字分は寄付金で賄っているそうです。こういった施設が増えていくためには収支が均衡になるような支援体制が必要だと述べていました。
 

医療的ケア児を持つ家庭の姿

 就学前の医療的ケア児は医療的ケアに対応できないことを理由に保育園や幼稚園に通うことができず、友達ができないことから家族が孤立しがちになります。学童期では地域の学校へ通えなかったり、通学には親の同伴が必要になったりします。卒業後は家以外の居場所がなく、親亡き後の生活がとても不安になります。親の悩みとしては医療的ケアが24時間365日続くため、睡眠時間も少なく、疲労が蓄積され、就労ができない状況が起こります。残された兄弟姉妹は学校行事への親の参加が制限され、病気の子どもが優先されるため、我慢することが多くなる家族の実情があると話していました。そのため「もみじの家」のような施設が都道府県に1か所ずつ設置されることを望んでいました。

 

山梨県内の状況は

 5年前に当クリニックで医療的ケア児を対象とした預かり施設「スマイル」を開設しました。「もみじの家」が行っている宿泊まで対応できていませんが、日中のみの預かりを通じて、微力ではありますがそのお子さんやご家庭に関わっています。その家族からも同様の大変さを聞いています。また、うちのスマイルも「もみじの家」同様に赤字体質になっており、継続の難しさを感じています。その後、山梨県内においては国中地域では日中のみですがさらに2施設増えました。宿泊できる施設は県内では一部の病院でしか行われておらず、郡内地域は日中・宿泊可能な施設が共にないため、そのような施設が増えることを望んでいます。施設を運営する上で赤字体質が見込まれるため、運営施設への公的な補填や公的な施設の開設が期待されます。

 医療的ケア児に関わる生活環境が現在、あまりにも貧弱であることが否めません。家族の努力で解決できる次元を超えており、社会で支えるべき課題となっています。医療的ケア児とその家族は社会から孤立しがちで、対象者も少ないことから大きな声になりづらいものとなっています。障害の有無に関わらずどんな子どもでも安心して子育てできる環境が充実されることを医療的ケア児とその家族の代弁者として皆様にお伝えしたいと思います。

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