

小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。



小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。
今年の夏は本当に暑かったですね。35℃以上の最高気温が連日続き、体にとても応えました。
さて、2学期に入って園・学校生活に慣れないお子さんが、腹痛、頭痛を訴えうちのクリニックに受診します。運動会の練習で疲れている子どもたちもいます。園・学校でがんばった分、家でゆっくりと体を休ませてあげてください。家で充電できれば、翌朝は元気になって飛び出していけます。また必要に応じて子どもたちの訴えを聞き、園・学校に協力していただき調整をしている子どももいます。小児科医として子どもの代弁者であり続けたいと思っています。
さて、私のマイブームをお伝えします。10年前、自宅の屋根に太陽光パネルと設置し、その電気を活かして自宅の電気を一部賄っています。さらに数年前、ネット通販店で太陽光パネルと蓄電池を購入。その蓄電池を利用して、自宅の扇風機、スマホの充電、洗濯機、電子レンジなどで使用し、なるべく既存の電気を利用しないように工夫しています。小さなことですが、少しずつ気にすれば、電気を作る原料となっている石油・石炭・原子力などの軽減化に寄与できるのではないかと自己満足に浸っています。
今月は、ここ20年くらいで世界的に増加している消化管アレルギーについて皆様にお伝えいたします。
「消化管アレルギー」という言葉を耳にしたことがない方もいるかもしれません。消化管アレルギーは食物アレルギーの中で、嘔吐・下痢などの消化管症状を認める病気と言われています。以前までは病名がいくつも混在していました。患者数の増加で認知されるようになり、病名もようやく統一されるようになってきたのが現状です。
消化管アレルギーは新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症と好酸球性消化管疾患の2つに大きく分けられます。今回は、新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症のうち患者数が一番多い、代表的な病名である「食物蛋白誘発胃腸炎(≒消化管アレルギー)」について述べさせていただきます。
消化管アレルギーは新生児や乳児で原因となる食物(卵など)を摂取してからしばらくして、嘔吐や血便、下痢などの症状がみられます。皆様がよくご存じの(即時型)食物アレルギーはじんましんや咳・ゼイゼイなどがみられますが、消化管アレルギーは嘔吐・下痢などの消化器症状のみでじんましんなどの症状がないのが特徴的です。
2024年国立成育医療研究センターの研究結果で、消化管アレルギーの原因食物は鶏卵(58%)が最も多く、大豆(11%)、小麦(11%)、魚(6%)、牛乳(6%)、貝(4%)でした。鶏卵のうち94%が卵黄ということがわかりました。当院においても、原因食物では鶏卵の中で「卵黄」が非常に多い印象があります。また発症月齢は、牛乳が生後1ヶ月と最も早く発症し、続いて大豆6ヶ月・鶏卵7ヶ月・小麦8ヶ月でした。発症が遅くみられるものとして、魚36ヶ月・貝48ヶ月があります。別のデーターでは、初回摂取で症状がでる場合は頻度として少なく、複数回から発症する場合が多いと報告されています。私の経験でも初回発症でなく、3~4回目摂取して発症する場合が多いです。
国際的な診断基準があり、「主要基準」を満たした上で、「副基準」のうち3つ以上を満たした場合に診断されます。「主要基準」とは原因食物を摂取後1〜4時間後に嘔吐があり、(即時型)食物アレルギーで認められるような皮膚・呼吸器症状がないことです。「副基準」とは➀同じ食物を摂取した際に、繰り返す嘔吐が2回以上ある ②2つ以上の異なる食物に対して、摂取後1〜4時間後に繰り返す嘔吐がある ③極度の活力の低下 ➃血の気が引き青ざめる(蒼白) ⑤緊急受診の必要がある ⑥輸液をする必要がある ⑦食物摂取後24時間以内の下痢(通常5〜10時間後) ⑧血圧低下 ⑨低体温のうち3つ以上満たした場合に該当します。よくある例は、卵黄を食べ始めて数回試した時に、3時間前後に嘔吐を認め、そのエピソードを2~3回繰り返すことが診断のめやすになると考えられています。疑うことがこの病気の発見につながります。
治療は原因食物を除去をすることで、嘔吐などの症状はなくなります。その後、原因食物を解除する段階を考える必要があります。幸い、消化管アレルギーは予後良好と言われており、1~2歳で食べられる場合が多く、食物負荷テスト(医師の指示のもと少量から食べる)を病院で行い、症状がなければ除去解除でき完治できます。
日本小児アレルギー学会. 食物アレルギー診療ガイドライン2012 協和企画
食物たんぱく誘発胃腸症(消化管アレルギー) 国立成育医療研究センターHP
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/gastrointestinal_allergy.html
Hayashi D, Yoshida K, Akashi M, et al. Differences in Characteristics Between Patients Who Met or Partly Met the Diagnostic Criteria for Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome (FPIES). J Allergy Clin Immunol. 2024 Jul;12(7):1831-1839
今夏は異常とも言えるほど、猛暑が続いています。来月になれば暑さも和らぐので、水分をしっかり取って、エアコンを上手に利用し熱中症に気をつけてください。2学期が始まり運動会の練習も加わると、頭痛・腹痛・だるさなどの体調不良を訴えるお子さんには、学校での困り感がないか聞き、調整をしていただけるとありがたいです。
うちのクリニック隣にあるげんき夢こども園では保護者がわが子と一緒に1日園の見学をする保護者参観があります。その参観の中で、保育士と保護者らで情報交換会があり、そこに参加したある父からの話をお伝えします。園では子どもたちに防煙教育の一環で年長児に対し、たばこの害について説明をしたところ、子どもが父に「たばこには害があるので、パパやめた方がいいよ。」と真顔で言われたことが父の胸に響き、禁煙を決意したそうです。子どもたちへの教育の大切さを感じました。
わが家のブームと言えば、今まで見たことがなかったNHK朝ドラ「あんぱん」を毎晩、見ていることです。「アンパンマン」を生み出したやなせたかしと暢の夫婦の生き様を描いていて、戦中、戦後の荒波を乗り越えていく物語自体、感嘆させられます。テレビをゆっくりと見れるようになったのも、娘が中学生になり、子育てが以前より楽できるようになった証と感じました。
7月の連休に行われた「第35回全国病児保育研究大会in愛知」に、うちのスタッフと一緒に参加してきました。全国各地で精力的に行われている病児保育のスタッフからいろいろなことを学び、親睦を深めてきましたので、皆様にご報告いたします。
病児保育は一般的に保育園や幼稚園に通っている子どもが病気にかかり、集団保育が不可能な場合に、その子どもを預かることを言いますが、正式には全国病児保育協議会により「病児保育とは、単に子どもが病気のときに保護者に代わって子どもの世話をすることを意味しているだけでなく、病気にかかっている子どもに、子どもにとって最も重要な発達のニーズを満たしてあげるために、 専門家集団(保育士・看護師・医師・栄養士等)によって保育と看護を行い、 子どもの健康と幸福を守るためにあらゆる世話をすることである」と定義されています。子どもが病気にかかると親は不安になります。その際経験豊富な専門家が全面的にサポートします。ご安心ください。
15年前からうちの病児保育室をクリニックとこども園と一緒に運営しております。保育士・看護師が連携しながら保育を行い、栄養士が個別に対応しながら、小児科医である私も関わり対応しています。現在の利用人数は1日3~4人程度で病気別に部屋を分けて対応しています。利用時、場所や人に慣れないで泣いていた子どもも保育士に慣れ、楽しそうに遊んでいます。利用されたご両親から感謝の言葉を聞くと存在意義を感じます。保育士1名に対して子どもが2,3人と少数のため、利用しているお子さんの満足度は非常に高く、普段通っている園よりも病児保育室に行きたがるお子さんもいます。お子さんの急な病気で仕事を休みにくい場合は病児保育の利用を検討してみてください。
病児保育は市町村の事業であるため、住所地にある病児保育室しか利用できません。県内どこでも利用できる広域化は利用者の声を私たち県内の施設長らで知事への要望書を提出したことがきっかけでした。2018年、県主導で山梨県内の病児保育施設はどこでも利用できるようになり、これが全国初のことでありました。現在は山梨県も含めて5都道府県にまで広域化が広がっています。
全国病児保育協議会から他の都道府県にも広げて欲しいと声がかかり、私が広域化を広げるプロジェクトリーダーに選ばれ、今回の病児保育研究大会で広域化のシンポジウムを初めて開くことになりました。このシンポジウムでは、広域化が進んでいる福岡県・大分県・鳥取県・愛知県の関係者からの話、広域化できていない地域の利用者から広域化を強く願う訴えもあり、大変有意義な会となりました。このシンポジウムの参加者も多く、関心の高さに驚かされました。
山梨県で広域化が達成できたのも県と各市町村のおかげであると感謝しております。さらに、2024年10月から利用料の1000円補助が始めり、山梨県の病児保育は他の都道府県と比べ物にならないほど利用しやすいものとなっています。
病気のときぐらいは親(特に母親)がみるべきと考えている社会の風潮はまだ残っていると思います。こうした風潮を変えていかないと、子育てしやすい世の中にならないと思います。子どもは急に熱を出し、園や学校に行けなくなると、親は仕事をどうするか困ってしまいます。職場の雰囲気が気軽に休めるようであれば、よいのですが、そういった職場はまだ少ないのが現状です。困ったら病児保育の利用を検討してください。
暑いですね。夏休みは子どもたちと一緒にいる時間を楽しみましょう。学校に通っていたお子さんたちは長い休みを利用し、心も体もリフレッシュしてくださいね。長い休み明けは、慣れない学校生活に不調を訴えるお子さんがいます。 ゆっくりと順応できるように丁寧に関わっていただきたいです。
6/13公開された映画「フロントライン」を妻と一緒に観てきました。この映画は新型コロナウイルス感染症が国内初の感染者が発表されて1か月もしない2020年2月、大型クルーズ船で新型コロナウイルスの集団感染が起き、災害専門医療組織DMATが未知のウイルス(新型コロナウイルス)に立ち向かう奮闘を描いた実話に基づいた作品です。自分のコロナ禍での診療などを思い出しながら、コロナ禍の初期で情報があまりない中、悪戦苦闘しながらも人命を一番に考え行動するDMATの姿に感動を覚えました。自分自身も医療人として「患者さんのために」これからも働いていこうと励まされました。
先月、うちのクリニック併設のげんき夢こども園主催で、山梨県子どものこころサポートプラザセンター長である相原正男先生による「子どもが未来に向かうための力とは」という講演会が開催され、園医として一緒に聴講させていただきました。アタッチメント、非認知能力、しなやかな(折れない)こころなどについて、脳科学の研究者の知見も踏まえて、わかりやすく話をしていただきました。
今月はこの講演会でも強調されていた「非認知能力」についてお話します。
認知能力は数がわかる・字が書けるなど学力、IQといったテストなどで測れる能力を言い、非認知能力は「目標に向かってがんばる力」「人とうまく関わる力」「感情をコントロールする力」といったIQなどで測れることのできない内面の能力を言います。
「非認知能力」が重要視されるきっかけとなったのは、2000年ノーベル経済学受賞者のジェームズ・J・ヘックマンらの研究です。経済的に恵まれない3~4歳のアフリカ系アメリカ人の子どもたちを対象に、毎日平日の午前中は学校で教育を施し、週に1度午後に先生が家庭訪問をして指導に2年間行いました。別のグループの就学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子どもたちと比較検討し、約40年間、追跡調査が行われました。その2グループを比較したところ、40歳になった時点で就学前の教育の介入を受けたグループでは、介入なしのグループと比べて、高校卒業率・持ち家率・平均所得が高く、婚外子を持つ比率・生活保護受給率・逮捕者率が低いという結果が出ました。就学前の保育の重要性、幼少期に非認知能力を身につけておくことが、大人になってからの幸せや経済的な安定につながっていると考えられました。
この研究結果から2015年OECD(経済協力開発機構)がその重要性を指摘、日本でも文科省が「非認知能力」育成の重要性を伝えています。
NHKエデュケーショナルすくコムの番組が、幼児期に認知能力を高めることがその後の人生の成功や安定につながっているのかについて調べています。その結果、認知能力とあまり関係がないこと、非認知能力は子ども主体の遊びで育つこと、遊びこむ中でやる気・意欲・粘り強さ・探求していく力が身につくこと、うまくいかないときに諦めず「どうしてかな」「こうやってみよう」「これがだめなら、ああやってみよう」と目標達成まで頑張る姿勢を身につけることや、子どもが遊んでいるときに失敗しかけたら「こうしたらどう?」とフォローしてあげると、頑張りが続き「頑張ればできる」と理解することなどを経験し積み重ねていくことで、非認知能力が伸びていくと述べていました。
うちの子どもたちも小さい頃に、公園などで遊んだり、兄弟げんかをしたり、親と触れ合いながら、非認知能力を高めていたのだと思い起こしました。子育てにおいて、どうしても認知能力に目を奪われがちですが、幼少期の非認知能力を伸ばすことが学童期以降の土台になってきます。
昨今AI(人工知能)が私たち生活に身近になっています。さらなるAIの進歩で将来は多くの仕事がなくなる可能性があると言われています。これからの時代はAIとの差別化を考慮すると、更に「非認知能力」の重要性が高まってくるのではないかと感じています。
ヘックマン,J,J.(2015)「幼児教育の経済学」東洋経済新報社
中央教育審議会 初等中等教育分科会 幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会 ―第2回会議までの主な意見等の整理―
https://www.mext.go.jp/content/20210901-mxt_youji-000017746_2.pdf
NHKエデュケーショナルすくコム 世界で注目される非認知能力って?2017/6/24放送
今年は短い梅雨のようで、あっという間に夏がきて猛暑日の連続となっています。皆さん熱中症に気をつけながら夏を楽しみましょう。先月、当クリニックに隣接するこども園の夏祭りに園医として参加しました。おやじの会が主催した絵本の読み聞かせの1人として、私も親子に読み聞かせをさせてもらいました。隣接するこども園では「令和6年度子どもの読書活動文部科学大臣表彰」を受賞しており、本との触れ合いを大切にしています。私が絵本を読み始めると、あら不思議、たどたどしく読んでいる話を子どもたちが真剣に聞いてくれました。読み手も絵本の魔力に魅了されました。
今月は参議院選挙が実施予定となっています。私たち1人1人の思いを社会に反映する場として選挙があります。皆さんも社会の不満(コメ問題、物価高など)を感じていると思います。投票する人がいないと諦めずに、悪くない人に投票してください。投票する人たちに政治家は耳を傾けます。私も自分の子どもたち、クリニックスタッフへ投票を呼びかけるつもりです。
5月末、山梨県障害児(者)地域療育等支援事業の研修会で県内の保育士・保健師・教師・養護教諭などを対象に「発達や行動が気になる子の理解を学ぶ」という題で講演をさせていただきました。大勢の聴講があり、関心が高い分野であることを再認識させられました。話の中で発達障害のお子さんは発達の凸凹に配慮をしながら、早期発見・早期支援、そして2次障害の予防が大切であることを伝えました。障害を知る中で、発達障害の認知が高まっていますが、「境界知能」についてはまだ認知がされているとは言えません。
今月はみなさんに「境界知能」についてお話します。
知能指数(IQ)85~115が平均的、70を下回ると知的障害にあたるとされています。「境界知能」はIQ70~85に位置する人たちのことで、病気(病名)として扱われてないのですが、日常生活に困難を抱えている人が少なくありません。日本の人口の約14%(約1700万人)、7人に1人います。知的障害の方々は手厚い支援が受けられていますが、「境界知能」の方々は社会的な支援が乏しく、日常生活に困難を抱えていることが社会問題になっています。
境界知能に詳しい古荘純一医師は「人によって差はあるが、境界知能の人の特性は数的な処理が苦手・作業スピードが遅い・物事の理解が表面的・適切なコミュニケーションが苦手などあります。一見、その困難が周囲の人からはわかりにくいため、理解につながらず、困難な状況に陥っています。ひきこもりや不登校などになっている人もいる。」と話をしています。
さらに昨秋、NHK首都圏ナビで取材された境界知能の女性は中学時代、毎日3~4時間勉強し続けても成績が伸びず、教師からは「努力不足ではないか」と言われ、本人は「全部自分が悪い。悲しかったし、悔しかったし、情けなかった。」と思っていたそうです。
著者である宮口幸治は児童精神科医で、医療少年院での勤務で多くの非行少年たちと出会った経験がつづられています。その非行少年たちは認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない場合が多くいるそうです。非行少年の多くが境界知能に該当し、生育歴を調べると、小2くらいから勉強についていけず、友達から馬鹿にされたり、イジメに遭ったり、先生から不真面目だと思われたり、家庭から虐待を受けていたりします。これが2次障害と言われるものです。そして学校に行かなくなり、暴力や万引きなどの問題行動を起こし始めていきます。困っている子どもがいたら、早期発見と支援が大切で支援するために著者らが立ち上げた「コグトレ研究会」が参考になるようです。
私自身は「境界知能」について日々の診療で意識していたとは言えないのが現状でした。気づきづらい「境界知能」のお子さんは自分から困っていると訴えることはありませんので、学校関係者をはじめとした私たち大人が気づき支援していかなければならないと思います。昨今、発達障害は多くの方々が知るようになり、理解が進んでいますが、知的障害と平均的な方々との間に位置する支援が乏しい「境界知能」の人々の生きづらさについて知るきっかけになれば幸いです。
境界知能とは 特徴は 検査でIQ81と判明した女性 仕事や学習で長年悩むも“支援がない”NHK首都圏ナビ
https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/013/68/(参照日2025年6月18日)
宮口幸治(2019)『ケーキの切れない非行少年たち』新潮社.
今月は梅雨もあり、祭日もないので一月が長く感じますね。
子ども達は学校・園での疲れもたまってくる頃かもしれません。お子さんの訴えには耳を傾け、学校・園でお子さんの困り感があった場合はご両親がお子さんの声を汲み取り、時には先生に伝えることで子どもの不安な気持ちが和らぐことがあります。ぜひ向き合ってみて下さい。
3年前にうちの庭にサクランボの木を植えました。2年前は実ができる前にアオムシに葉を全部食べられてしまいました。今年は消毒をして、なんと初めてたくさんの実が生りました。とてもうれしい気持ちで明日にでも味見しようと考えていたある日、実をカラスにすべて取られていました。サクランボ農家の方に聞いて来年はネットをかけて対策しようと考えています。
我が家は娘が中学生になり、帰りは部活が終わって午後6時過ぎに帰宅、週2回で朝練もあり、小学校の時と様変わりの生活です。娘は学校にいる時間が長くなり、夫婦2人でいる時間も多くなってきました。少ないながらも子どもと接する時間を大切にしたいと思います。
先月、東大前駅刺傷事件がありました。43歳男の動機が子どもの心身が耐えられる限度を越えて教育を強制する「教育虐待」が原因で、罪を犯したと供述しています。教育熱心な親の下で中学時代に不登校になって苦労したこと・小学生の頃、テストの点数が悪いと親に厳しく叱責されたようです。今月は「教育虐待」について皆さんと考えていきたいと思います。
「東大前駅刺傷事件」以外にも、2018年滋賀県守山市で母親が国公立大医学部への進学にこだわり、約9年間浪人させたことで元看護師の長女が母親を殺害した「滋賀医科大学生母親殺害事件」、2023年には九州大学に通う19歳の大学生が佐賀県鳥栖市の実家で両親を殺害した事件がありました。きっかけは幼少期から父親による心理的、身体的な虐待を受けており、事件4日前に大学の成績が下がったことで1~2時間ほど正座させられ叱責されたことでした。
当クリニックでも、子どもたちが「頭痛」「腹痛」などの症状を訴えるケースがあります。胃腸炎や感冒などが否定された場合、学校の悩みもありますが、ご両親が教育熱心なあまり、子どもたちに必要以上の勉強を期待する場合があります。その時はご両親に勉強時間を減らすようにお伝えたりします。結果子どもたちの訴えが改善することがあります。事件にまでならない場合でも、「教育虐待」に近いことは身近にあります。親がよかれと思っていても、子どもは深く傷つき、自信が低下し、うつや不安などの精神症状、体調不良を認める場合があります。勉強だけでなく、スポーツや音楽もあてはまります。
2024年3月13日、NHKクローズアップ現代「教育虐待、その教育は誰のため?」の番組の中で一般社団法人ジェイス代表理事武田信子さんの話がありました。「教育熱心」でありたいと思いながらも「教育虐待」につながることがある。「教育熱心」である場合は、親は子どもをそもそも別の人格だと考え、子どもが幸せな状態かを第一に考えて、無理ならば別の道を考えます。「教育虐待」は自分の子どもは自分の作品と思い、子どもと自分の成功が大切でその道を良かれと信じて疑わないようになる。教育虐待の背景には「親の不全感(親の理想を実現できていない)」・「子どもの人生は親の責任」・「競争的な社会」があります。そのため、親の子どもへの向き合い方として「子どもを尊重する」・「対話できる関係作り」が大切だと述べています。子どもの気持ちに寄り添い、親の言う通りにするのではなく「それで、どう思っているの?」というやり取りをする。このような対話をずっと繰り返すことで、親が決定しないで子どもを尊重できる。このやり取りを繰り返していくと信頼関係が作られると言っています。
私自身も子どもに教育虐待に近い?ことをしたことがあります。子どもが中学生の時、暴力はしませんでしたが、言葉で強く「勉強しろ!」と言ったことが何度か(もしかしてもっとかも?)あります。そうすると家庭が冷え切りました。親として子どもに過度の期待をしてしまったことが自分自身の反省点です。その経験から学んだのは「子どもは自分とは別人である」「子どもは学校などで勉強するように言われている」ことです。親ができることは、見守って応援してあげることだけでよいことを知りました。中1の娘にはそれだけを心がけています。親は子どもに尽くすことだけが責務ではありません。子どもが成人になってもよい親子関係を保つことで、お互い助け合う関係もできます。やがて子どもは老いていく親をサポートしてくれるでしょう。親業を楽しみましょう。