

小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。
小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。
やっと春が来ました。私は寒いのは苦手なのでとてもうれしい季節が到来、気持ちも上向きになります。先月、妻と2人で「35年目のラブレター」という映画を観てきました。実話に基づくもので各メディアから取り上げられ映画化されました。過酷な幼少時代を過ごし、読み書きができないまま大人になってしまった主人公の保、文字が書けないこと以外どこにでもいる夫婦の優しい物語です。読み書きができないことが日常生活の生きづらさがあった保が定年退職後、最愛の妻にこれまでの感謝を込めたラブレターを書きたいと夜間中学に通う、、、。私たち夫婦も結婚して30年経ち、重なる思いもあり、涙なしでは観れませんでした。子育て中は夫婦関係を見つめ直すことがあまりないかもしれませんが、たまには夫婦2人でこんな映画を観たりして夫婦の在り方を考える時間が持つのはどうでしょうか。
2月20日、山梨県立文学館で「山梨県病児保育事業の発展のために」というテーマで病児保育事業を担う県や市町村担当者や病児保育室を担当する保育士・看護師等に対して講演をさせていただき、その後参加者でグループディスカッションをしました。病児保育事業について県と市町村の担当者と各病児保育施設運営側が集って理解を深める機会が今までなかったので、非常によい会となりました。病児保育室について今まで以上に県民への広報を努めていくことや施設側の悩みを県や市町村にわかってもらえました。
今月から65歳を対象に「帯状疱疹ワクチン」が定期接種になることが決まりましたので、皆さんが知っていただき、ご家族に65歳以上の対象者がいましたが、このワクチンの接種をお勧めしてください。
水痘・帯状疱疹ウイルスの感染に伴って水痘(みずぼうそう)にかかり、治った後もウイルスが体内(神経節)に潜伏し、過労やストレスなどで免疫が低下すると、再び活性化し帯状疱疹を発症します。発症すると体の片側に水疱を伴う紅斑が帯状に広がります。症状は痛みを伴うことが多く、3~4週間ほど続きます。治療は抗ヘルペスウイルス薬を使用します。かかりやすい年代は50歳代以降で増え、70歳代がピーク、80歳までに約3人に1人が経験しまう。成人の90%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスが体内に潜伏しているのでほとんどの人が帯状疱疹になる可能性があります。
帯状疱疹を発症した場合、接触感染によって水痘にかかる可能性があるので、水痘ワクチンを接種していない乳児などとの接触は避けてください。
帯状疱疹の最も多い合併症として「帯状疱疹後神経痛」があり、これは皮膚症状が治った後にも数か月から数年にかけて痛みが続きます。「焼けるような」「締め付けるような」持続性の痛みや、「ズキンズキンとする」痛みを多く訴え、睡眠や日常生活に影響します。帯状疱疹にかかった10~50%かかると言われています。
今月から帯状疱疹ワクチンが定期接種化されました。このワクチンで帯状疱疹やその合併症を予防できます。対象年齢は「65歳」の人が対象で、費用の一部が公費で助成されます。2025年度から2029年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳となる方も対象で、100歳以上の方は2025年度に限ります。
ワクチンは「生ワクチン」と「乾燥組替え帯状疱疹ワクチン」の2種類があります。生ワクチンは接種が1回、予防効果が接種後5年で効果が4割続き、主な副反応は接種部位の皮膚の発赤が44%にみられます。乾燥組替え帯状疱疹ワクチンは接種が2回、予防効果が接種後10年で効果が7割続き、主な副反応は接種部位の腫れが89%です。現在(3月20日時点)、個人の負担額が確定してないため、お住いの市町村に確認していただくことをお勧めします。どちらにすべきか迷われる場合はかかりつけ医に相談をしてください。ぜひ前向きに接種していただくことをお勧めします。家族の中に対象者がいましたら、周囲の方々が勧めていただければ幸いです。
最後に、2015年以降、子どもたちへの水痘ワクチンが定期接種化されました。これによって子どもたちが水痘にかからなくなってきています。水痘の流行がなくなることで、自然感染による免疫の増強(ブースター)が受けられなくなり、結果的に帯状疱疹の患者数が増加することが予想されており、帯状疱疹ワクチンの重症性が増しています。
帯状疱疹ワクチンファクトシート第2版(令和6年6月20日改訂)国立感染症研究所 https://www.wic-net.com/material/static/00015256/00015256.pdf
今月から少しずつ植物や虫たちが息を吹き返す季節ですね。うちの娘が長い小学校生活を終え、来月から中学生になります。子どもの成長は早いもので嬉しくもあり、ちょっぴり寂しさも感じます。最近、仕事関係の仲間から声をかけられ、大学時代部活動としてやっていた硬式テニスを月1回やるようになりました。30~40歳代は仕事・家庭生活が多忙でテニスと無縁でしたが、子育ても落ち着き顔を出せるようになりました。テニスを通じて仲間が増え、体を動かすので健康にもよいですね。皆様も子どもが大きくなってきたら、少しずつご自身のための時間を作り、うまく子離れをしていってください。
薬物依存というと覚せい剤や大麻をイメージしますが、最近は薬局やドラッグストアなどで売っている市販薬を乱用する若者が急増しています。今月は昨今の社会問題になっている市販薬の過剰摂取(オーバードーズ、OD)についてお話します。
医薬品を決められた量を超えてたくさん飲んでしまうことを指して、「オーバードーズ」と言われています。特に最近、かぜ薬や咳止め薬などをかぜや咳の症状を抑えるためではなく、感覚や気持ちに変化を起こすために大量に服用することを指して、「オーバードーズ(OD)する」などと言われています。
薬は肝臓や腎臓で分解され無毒化(代謝)されるので、たくさん飲んでしまうと、身体に大きなダメージを与えてしまい、死に至ることもあります。ODにより意識がもうろうとしたり、呼吸が苦しくなったりして救急搬送される例が各地で報告されています。ODは心と体を傷つける、危険な行為です。
2022年、国立精神・神経医療研究センターによる調査では、全国の精神科医療施設で薬物依存症の治療を受けた10代患者のうち、市販薬を主に使用していた患者は全体の65.2%を占めています。ちなみに2014年の同様の調査では、市販薬を使用していた患者の治療は0%でした。ODが若年層に急速に浸透してきていることが分かります。
国立精神・神経医療研究センターが2021年に実施した「薬物使用と生活に関する全国高校生調査」によると、「過去1年間に市販薬を乱用した経験がある」と答えた生徒が約60人に1人の割合(約1.6%)でいることがわかりました。
この調査では市販薬乱用の経験を持つ高校生は非経験者に比べて、睡眠時間が短い・朝食の摂食頻度が低い・家族全員での夕食頻度が低い・大人不在で過ごす時間が長い・親しく遊べる友人や相談ができる友人が少ない・悩み事があっても親(特に母親)に相談しない・インターネットの長時間使用(1日6時間以上)の割合が高い結果でした。市販薬乱用の予防や支援をしていくためには、こうした生活上の特徴を把握していくことが重要と考えられています。背景に社会的孤立・生きづらさがあります。
つらい気持ちや、嫌なことがあったり、なんだかもやもやしていたり・・・そんな気持ちや生きづらさをODで変えられると思ったら・・・そんな時は危険なODより、つらい気持ちや嫌なことを誰かに話してみたり、困っていることを相談してみたりすると、そんな状況が少し変わるかもしれません。
身近な友達や先生や家族にはちょっと話しづらい時は専門家が話を聞いてくれる相談窓口(精神保健福祉センターなど)もあります。もちろん、秘密は絶対に守られます。誰かに相談するのは、勇気がいるかもしれません。そんなに難しく考えなくても、ただ誰かとなんでもないお話をするだけで、こころが少し晴れることもあります。
友達や家族がODしていることに気づいたら、力になってあげてください。何をしてあげたらいいかわからなかったら、専門家に相談できる窓口を紹介することも支援の一つです。相談はODをしている本人でなくてもできます。本人に対しては責めたり、無理やりやめさせようとしないでください。それよりも、本人がODをしないといけないくらい「辛い」ことを受け止め、まずは本人の話に耳を傾けてあげてください。それだけで本人の気持ちが落ち着くこともあります。「辛いんだね」「大変なんだね」などと声をかえてみてください。家族だけで抱え込むのではなく、専門医療機関や精神保健福祉センターなどに相談をしてください。
厚生労働省ホームページ 一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について
薬物使用と生活に関する全国高校生調査(2021) 厚生労働省
https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/highschool2021_ver2.pdf
全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2022、国立精神医療研究センター)
https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/J_NMHS_2022.pdf
今月も寒い冬が続きますね。寒さに負けそうになりますが、意識して体を動かすことも大切です。先月、富士スピードウェイで「第17回スーパーママチャリグランプリ」に出場してきました。この大会は10名以内のチームがレース場をママチャリで走り、順位を競う6時間耐久レースです。げんきキッズクリニックとして2チームエントリーをし、息子たち若人ら精鋭10人が死に物狂いでママチャリを漕ぎ、堂々11位(509チーム中)、もう1チームは私も参加し結果は436位でした。最初は下りが多くスピードが出てとても気持ち良かったのですが、後半は上りが多く、息が切れました。レース場をママチャリで力走でき、とても刺激的な経験ができました。
そして、先月「雪の花」という映画の試写会を妻と一緒に観てきました。死に至る病と恐れられていた天然痘が猛威を振るい多くの人命を奪っていた江戸時代末期、福井藩の町医者が種痘(予防接種)という方法があることを知り、藩・幕府をも巻き込んで、命がけで種痘の普及に努めていくストーリーでした。人を救うことに命がけで取り組んでいた町医者の姿に感動すると共に、自分も改めて与えられた職種を全うしていこうと痛感しました。
コロナ禍では感染対策を強化したため、多くの感染症の流行がなくなりました。インフルエンザの感染も激減、このため、多くの方々がインフルエンザに対する免疫力が低下したためか、今シーズンのインフルエンザは過去10年の中で最多のペースで患者数が増加しています。
今月は猛威を振るっているインフルエンザの対応法についてお話します。
インフルエンザはインフルエンザウイルスに感染することによって起こる病気です。38度以上の熱・のどの痛み・鼻水・咳・頭痛・関節痛・筋肉痛・全身倦怠感などの症状があり、子どもの場合、まれに急性脳症になることもあります。インフルエンザウイルスは小さな変異を繰り返すため、以前にインフルエンザに罹ったことがあっても、ワクチンを接種したことがある人でも罹ってしまう感染症です。
インフルエンザ流行期に熱があった場合、検査で鑑別をすることをお勧めします。インフルエンザに罹った場合、抗インフルエンザ薬を使用することで症状が楽になるからです。抗インフルエンザ薬はインフルエンザウイルスを殺すのではなく、増殖を抑えるため発症後48時間以内に使用することが原則となっています。発症後48時間以内に受診することを意識した方がよいでしょう。また、検査するタイミングは熱がでてから12時間後以降が最適と言われています。
家族内にすでにインフルエンザにかかっている人がいる場合は、検査をせず、みなし陽性として診断を確定する場合があります。事前に医療機関に相談をするのも得策です。
抗インフルエンザ薬の効果としては通常1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量が減少することで重症化予防効果があります。薬は5種類で、内服薬・吸入薬・点滴静注液があります。タミフル(内服薬)は全年齢が対象になりますが、吸入薬の場合は低年齢では上手に吸い込むことが難しいのでお勧めしません。薬の選択に迷う場合は内服薬の方が無難です。
以前、抗インフルエンザ薬の服用後に異常行動が報告されており、皆さんも気になっていると思います。異常行動の結果、極めてまれですが、転落などによる死亡事例も報告されています。薬の服用と異常行動との因果関係は不明ですが、これまでの調査結果などからは、抗インフルエンザ薬を服用していない場合でも、同様の異常行動が現れていることから、抗インフルエンザ薬の服用の有無に関わらず、異常行動による転落などの防止に注意するよう言われています。注意点としては、インフルエンザにかかった時(特に発熱から2日間)異常行動に備えて、玄関や全ての部屋の窓の施錠・ベランダに面していない部屋で寝かせる・1階で寝かせるなどの対策が必要になります。特に就学以降の小児・未成年者の男性に多いと報告されています。
予防はワクチン接種・手洗い・十分な休養とバランスのとれた栄養・適度な湿度・人混みなどを避ける・こまめな換気と言われています。ワクチンはまだ遅くないので検討してください。65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については、34~55%の発症予防効果があり、82%の死亡を阻止する効果があったと報告されています。また6歳未満の小児を対象とした2015~2016年の研究では、発症予防に対するワクチンの有効率は60%と報告されています。毎年、インフルエンザA型の後、B型が流行してきます。今シーズンにインフルエンザA型にかかった人も、B型にかかることがあります。しばらくインフルエンザの状況を気にしながら冬を乗り切りましょう。
令和6年度インフルエンザQ&A 厚生労働省ホームページ
2024/25シーズンのインフルエンザ治療・予防指針 日本小児科学会ホームページ https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20241202_2024-2025_infuru_shishin.pdf
平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷齊(国立療養所三重病院))」
平成28年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究(研究代表者:廣田良夫(保健医療経営大学))」
新年あけましておめでとうございます。
皆さんは2025年をどんな年にしたいですか?私自身は患者さんのために診療に励むこと・病児保育・医療的ケア児のデイサービス・訪問診療にも変わらず関わっていきたいと思っています。プライベートでは子どもが3人巣立ち、第4子が県外で大学生をしていて経済的な負担があるので、留年しないことを祈っています。第5子は今春中学生になり、新たな生活が始まります。子育てが早く終わって欲しいと思う反面、子どもが巣立っていく心の寂しさを感じています。 残された私と妻で相手をリスペクトしながら生きていきたいと思っています。
2024年11月末、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチン(HPVワクチン)について新たな救済措置が発表されました。接種機会を逃した女性(1997~2007年度生まれ)を対象にした救済措置「キャッチアップ接種」の期間を2025年3月末までに1回でも接種した方は、2026年3月まで2~3回目の接種を公費で認められるようになりました。対象者でまだ未接種の方がいましたら、母親の思いではなく、ご本人自身で接種するかの情報収集をして判断してほしいと願っています。なぜなら、ご本人が将来、かかってしまうかもしれない病気だからです。
今月は「チック症」についてお話します。チック症は5~10人の1人が経験、「くせ」の一つと見逃されがちな面がある一方で、長期間にわたって激しい症状が続き、生活に支障をきたすこともあります。2024年2月発刊された「小児チック症診療ガイドライン」を基に皆さんにお伝えします。
チックは突発的・急速・反復性・非律動性の運動または発声と定義され、発達障害者支援法の対象となります。原因はわかっておらず、育て方やストレスのみが原因で起こるわけではありません。生まれつきチックが出やすい素因があり、そこにストレスの影響が加わり、遺伝と環境の相互作用で生じると考えられています。
チックには運動チックと音声チックがあり、持続が短く明らかに無意味な単純チックと持続がやや長く意味があり目的性があるようにみえる複雑チックに分けられます。単純運動チックは目をぱちぱちする・ぎゅっと目をつぶる・首を振る・肩を上げる・手を振る・顔をしかめる・口を開けるなどがあり、複雑運動チックは手でたたく・ジャンプ・触る・手の臭いをかぐなどがあります。そして、単純音声チックは喉をならす・ぶっと音を出す・カン高い音・鼻をすする・咳払いなど、複雑音声チックは他人や自分の言葉や汚い言葉を繰り返すなどの症状があります。
トゥレット症は1000人のうち3~8人にみられ、多彩な運動チックと1つ以上の音声チックを認め、1年以上持続する場合を言います。典型例はまばたきなどの単純運動チックが4~6歳で、1~2年後に音声チックが発症し、年齢が上がるにつれて複雑なチックが増えていきます。10~12歳に症状のピークがあり、その後減弱していきます。但し、個人差が大きいこともわかっています。
症状がみられた場合は、自己判断せず、医療機関に相談をお勧めします。咳の症状の場合、風邪などと鑑別しづらい場合もあります。事前に動画を撮ってみせていただけると診断しやすいです。
症状は不安や緊張が強くなる・強い緊張が解けた・楽しくて興奮した時に増加しやすく、一定の緊張度で安定している・集中して作業している時に減少する傾向があります。
症状が本人の意思とは関係なく出てしまうので「その癖をやめなさい」・「短時間で止められるのだから我慢できるでしょ」などと本人に言うと、かえって症状を悪化させる可能性があります。また、ストレスや不安などがあると悪化することがあるため、ご家族や園・学校の関係者は本人が過ごしやすい環境にあるのか、学習面や友人関係で悩んでいないかについて把握して、本人が安心できるように配慮してもらえるとありがたいです。また、10歳頃に症状が強くなりますが、年齢が上がるにつれて治まっていくことも知っていただくと安心できます。私の経験では、親が子どもに対する接し方を優しく気にする・本人が好きではない習い事を休む・担任の先生に伝え、係などを減らすなどの対応で改善した例があります。但し、症状が激しく、体の痛みや疲労、食事や勉強などの日常生活に支障をきたす場合や、友達から注目されたり、からかわれたり、気にして外に出られないなど精神面での悪影響が考えられる場合は薬物療法を検討してもいいかもしれません。症状は千差万別です。お子さんの気持ちに寄り添って対応してもらえるとありがたいです。
日本小児神経学会編:小児チック症診療ガイドライン. 診断と治療社.
先月まで暖かい日が続いたことも影響し、あっという間に冬に移行したため月日の経つのが早く感じられます。今月はクリスマス・仕事納めと慌ただしい月になりますね。お子さんはサンタさんからのプレゼントを楽しみにしているでしょうね。当日開けた時の喜びは親子とも一生忘れられない思い出となります。
先月初め、家族で長崎へ旅行に行ってきました。夜、ロープウェイに乗って世界新三大夜景を見てきましたが、山梨県人だからなのか甲府盆地の夜景の方がずっときれいに感じました。もう一つ、訪れたのが「長崎原爆資料館」です。
被爆の惨状などを平和案内人の方から説明していただきました。説明の後、なぜ平和案内人をしているのかと聞いたところ、「1人でも多くの方に、原爆の惨状を知ってもらい、世界が平和になることを願って、ボランティア活動をしています。」と教えてもらいました。改めて平和について考える機会を得ました。
先月は抗生剤の適正使用について話をさせていただきました。思っていた以上の反響があり、好意的な反応がみられました。風邪(感冒)の原因の多くはウイルスで、抗生剤が効かないことを理解していただけたと思います。
今月は子どもたちを中心に流行している「マイコプラズマ感染症」についてお伝えします。ちなみに、マイコプラズマはウイルスでなく細菌であるため、抗生剤が効きますので、マイコプラズマのことを知って上手に対処できることを期待します。
マイコプラズマ感染症はマイコプラズマという細菌による感染症で、様々な症状を起こします。マイコプラズマにかかると、肺炎になりやすく、発熱・倦怠感・頭痛・咽頭痛などの症状が出始めて数日後に咳がでてきます。咳は痰を伴うことが少ない乾いた咳が特徴で、解熱後も長く持続する「長引く頑固な咳」です。
今年5月からマイコプラズマにかかる患者数が増加、2016年以来8年ぶりの流行となって、現在も流行しています。新型コロナウイルス感染症の流行で、多くの感染症にかからなくなり、マイコプラズマも同様に、免疫を持たない成人や小児が多くなっていたのが今回のマイコプラズマの流行につながっています。
診断はコロナとインフルエンザのような迅速検査がありますが、感度が低いため、積極的に検査するのはお勧めしません。つまり、検査して陰性でもマイコプラズマにかかっていないと否定できないのです。他の検査方法として、血液検査で抗体価をチェックする方法がありますが、採血をすることと結果に時間がかかることで普及していません。実際の診療では流行状況と症状から総合的に判断していくことが多いと思います。
マイコプラズマは細菌であるため、抗生剤が効きます。抗生剤の第一選択薬はマクロライド系の抗生剤が推奨されます。マクロライド系の抗生剤が無効な場合、ニューキノロン系(小児はトスフロキサシンのみ)もしくはテトラサイクリン系(8歳未満は医師が必要と判断した場合のみ可)の抗生剤に変更します。 今ある抗生剤を上手に使用することで耐性菌の出現が減らすことができ、どちら抗生剤も効かない耐性菌が現れないようにするべきです。大事なお子さんにどんな抗生剤が処方されているかを確認することも大切です。
感染予防は新型コロナウイルス感染症やインフルエンザと同様に、せきやくしゃみの飛散から感染が広がる『飛沫感染』のため、手洗い・うがいなど今まで通りの感染対策をしてください。せきがでている場合はマスク着用を心がけてください。潜伏期間が2~3週間と長く、家族間では忘れたころに症状がでてくることが多いです。今現在、マイコプラズマの流行期であることを知って、園や学校の先生方は、咳嗽が続いている場合は保護者に医療機関受診を積極的に勧めてください。
今冬はマイコプラズマ・インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の3つが流行するのではないかと危惧されています。各々の病気を知ることで、上手に医療機関受診し、お子さんの体を守っていただけるとありがたいです。
2025年もこのコラムを通じて、少しでも皆さんの健康に役立ててもらえたらと願っています。どうぞよろしくお願い致します。
マイコプラズマ肺炎流行に対する日本小児科学会からの注意喚起
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20241028_maiko.pdf
マイコプラズマ肺炎増加に関する学会からの提言について(周知)