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院長コラム

令和7年7月号(Vol.242)<br>「境界知能」について

2025/09/20(更新日)

 今年は短い梅雨のようで、あっという間に夏がきて猛暑日の連続となっています。皆さん熱中症に気をつけながら夏を楽しみましょう。先月、当クリニックに隣接するこども園の夏祭りに園医として参加しました。おやじの会が主催した絵本の読み聞かせの1人として、私も親子に読み聞かせをさせてもらいました。隣接するこども園では「令和6年度子どもの読書活動文部科学大臣表彰」を受賞しており、本との触れ合いを大切にしています。私が絵本を読み始めると、あら不思議、たどたどしく読んでいる話を子どもたちが真剣に聞いてくれました。読み手も絵本の魔力に魅了されました。

 今月は参議院選挙が実施予定となっています。私たち1人1人の思いを社会に反映する場として選挙があります。皆さんも社会の不満(コメ問題、物価高など)を感じていると思います。投票する人がいないと諦めずに、悪くない人に投票してください。投票する人たちに政治家は耳を傾けます。私も自分の子どもたち、クリニックスタッフへ投票を呼びかけるつもりです。

 5月末、山梨県障害児(者)地域療育等支援事業の研修会で県内の保育士・保健師・教師・養護教諭などを対象に「発達や行動が気になる子の理解を学ぶ」という題で講演をさせていただきました。大勢の聴講があり、関心が高い分野であることを再認識させられました。話の中で発達障害のお子さんは発達の凸凹に配慮をしながら、早期発見・早期支援、そして2次障害の予防が大切であることを伝えました。障害を知る中で、発達障害の認知が高まっていますが、「境界知能」についてはまだ認知がされているとは言えません。

今月はみなさんに「境界知能」についてお話します。

 

境界知能って

知能指数(IQ)85~115が平均的、70を下回ると知的障害にあたるとされています。「境界知能」はIQ70~85に位置する人たちのことで、病気(病名)として扱われてないのですが、日常生活に困難を抱えている人が少なくありません。日本の人口の約14%(約1700万人)、7人に1人います。知的障害の方々は手厚い支援が受けられていますが、「境界知能」の方々は社会的な支援が乏しく、日常生活に困難を抱えていることが社会問題になっています。

境界知能に詳しい古荘純一医師は「人によって差はあるが、境界知能の人の特性は数的な処理が苦手・作業スピードが遅い・物事の理解が表面的・適切なコミュニケーションが苦手などあります。一見、その困難が周囲の人からはわかりにくいため、理解につながらず、困難な状況に陥っています。ひきこもりや不登校などになっている人もいる。」と話をしています。

さらに昨秋、NHK首都圏ナビで取材された境界知能の女性は中学時代、毎日3~4時間勉強し続けても成績が伸びず、教師からは「努力不足ではないか」と言われ、本人は「全部自分が悪い。悲しかったし、悔しかったし、情けなかった。」と思っていたそうです。


「ケーキの切れない非行少年たち」を読んで

 著者である宮口幸治は児童精神科医で、医療少年院での勤務で多くの非行少年たちと出会った経験がつづられています。その非行少年たちは認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない場合が多くいるそうです。非行少年の多くが境界知能に該当し、生育歴を調べると、小2くらいから勉強についていけず、友達から馬鹿にされたり、イジメに遭ったり、先生から不真面目だと思われたり、家庭から虐待を受けていたりします。これが2次障害と言われるものです。そして学校に行かなくなり、暴力や万引きなどの問題行動を起こし始めていきます。困っている子どもがいたら、早期発見と支援が大切で支援するために著者らが立ち上げた「コグトレ研究会」が参考になるようです。

私自身は「境界知能」について日々の診療で意識していたとは言えないのが現状でした。気づきづらい「境界知能」のお子さんは自分から困っていると訴えることはありませんので、学校関係者をはじめとした私たち大人が気づき支援していかなければならないと思います。昨今、発達障害は多くの方々が知るようになり、理解が進んでいますが、知的障害と平均的な方々との間に位置する支援が乏しい「境界知能」の人々の生きづらさについて知るきっかけになれば幸いです。

 

参考文献

境界知能とは 特徴は 検査でIQ81と判明した女性 仕事や学習で長年悩むも“支援がない”NHK首都圏ナビ

https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/013/68/(参照日2025年6月18日)

宮口幸治(2019)『ケーキの切れない非行少年たち』新潮社.

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