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院長コラム

発達障害

小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。

  まだまだ寒い日々が続いていますね。現在、インフルエンザ流行中です。手洗い・うがいを徹底し冬を乗り切りましょう。うちの5歳の娘は私たち大人のやることをなんでも真似をします。私がいつも新聞をめくる時に、指を舌でなめてからめくる姿を見ていたのでしょう。なんと、うちの娘が同じようにしている様子を目にしました。私と妻がその光景をみて、数秒間の沈黙の後に大笑い、娘もよくわからず、大笑いしていました。何はともあれ、笑う明るい家庭が一番ですね。子どもたちは大人の真似をして育っていくのだと痛感する出来事でした。
 今月は先月に引き続いて発達障害についてお話します。先月の幼児編はご両親に対して発達障害が気になる場合、自分たちだけで悩むのではなく、専門家から助言を受けながら子育てしていくことをお勧めしました。就学前はまだ将来のことをイメージしづらいと思いますが、小学校入学後は将来のことも踏まえて考える時期に入ってきます。今月は小学校入学後から発達障害のお子さんがいるご両親への対応についてお伝えします。

学校生活での対応

 学校の先生にはお子さんの特性をしっかりと伝えることが大切です。ご両親のように長年付き合っているわけではないので、一度言えば伝わるわけではありません。密に連絡をすることでお子さんへの対応がスムーズになります。気になれば、連絡帳で伝えるだけでなく、直接会ってお話しすることも必要です。いじめなどで、本人にとって通学が負担と感じられる場合は学校を休ませ、体を休めることが必要な時もあります。
 また、友達がなかなかできない場合には、がんばって親友を作ろうと力が入ると逆に失敗することもあります。自然体で振る舞いながら、よい関係ができ友達ができればいいが、1人でもよいと開き直ることも必要かもしれません。

できなければ練習する

 発達障害のお子さんはいろいろな特性があり、社会生活で支障をきたすことがあります。支障がないように練習をすることで社会生活がしやすくなります。いくつかの具体的な方法をお伝えします。
 相手と話をするときに、相手の目をみて話をしないと相手から誤解を受けることがあります。発達障害のお子さんは目を合わせて話すことが得意ではありません。そのため相手の鼻もしくは眉間をみて話す練習をすると相手は目を見ていると感じてコミュニケーションがうまくいくようになります。
 座っているのが苦手な場合、1分座ったらほめることから始めてください。1分座れたら、ほめて時間を延ばしましょう。机の上に砂時計を置き、砂が落ちるまで座ってもらうこともいいかもしれません。
 授業を聞きながらノートが書けない場合は黒板をカメラやスマホなどで撮影する、電話をしながらメモを取ることが苦手な場合、電話を録音する方法で対応すると生活がしやすくなると思います。
 学校生活での基本はあいさつです。「おはようございます」「こんにちは」「いただきます」「ごちそうさま」「さようなら」「ありがとう」「ごめんなさい」が言えないと、友達とトラブルがおきやすくなります。小さい頃から家で練習しておけば、学校でも将来の仕事をする上でも大変役立ちます。
 できないから諦めてしまうとずっとできないままです。基本はスモールステップ、急いでも焦ってもうまくいきません。少しずつできることを増やしていってください。

 学校卒業後

 卒業後は、仕事に就き、自分で自活できるように考える必要があります。最終目標は「自活」です。まず、先ほど述べた生活の基本である「あいさつ」ができること。そして多くの職業の中から自分の特性に合った、かつ好きな職業を選ぶとよいでしょう。一般的に注意欠陥・多動性障害(ADHD)の方では、セールスマン・営業担当・電話勧誘・窓口業務などがお勧めで、技術・設計、教師、警察官、プログラマーなどは向かないようです。アスペルガー症候群の方はADHDと逆で、技術・設計などがお勧めで、セールスマン、営業担当などは向かないようです。
 最後にご両親だけで対応せずに信頼できる専門家のアドバイスを取り入れ、お子さんの将来を一緒に考えていくことが大切です。また、叱ってばかりいると、子どもの自己肯定感を下げ、不登校やひきこもり・うつ病などの二次障害が生じ、さらに生活が困難になります。学童以降は薬物療法を併用し対応することで、社会生活をしやすくし、二次障害を防ぐ方法となることもあります。

 参考文献

発達障害の理解と対応B(DVD) 平岩幹男 ジャパンライム株式会社

 新年あけましておめでとうございます。2018年、皆さんはどんな年にしたいですか?私は仕事面では家庭で過ごしている医療的ケア児のいるご家族がもっと過ごしやすくなるように尽力していきたいと思っています。家庭では三男(高3)、四男(中3)が今春、高校、大学へそれぞれ進学します。進路が決まるまで親としては緊張していますが、子どもたちはその何十倍も緊張しているので応援していくつもりです。うちにはその緊張を和ましてくれる娘(5歳)がいて、無邪気に振る舞い笑いを誘ってくれるので助かっています。
 今月は発達障害について取り上げます。3年前から県内では「こころの発達支援センター」が中心となり勉強会を企画し、大学・病院・開業の小児科医らが参加してきました。その勉強会に参加することで、発達障害に関する新たな知見を得ることができました。
最近では診療中に両親や祖父母から「うちの子が発達障害ではないか?」といった質問を受けることがあります。より身近になりつつある発達障害に関して今月と来月の2回(幼児編・学童編)に分けてお話します。

発達障害とは 

 発達障害とは発達の過程で明らかになる行動やコミュニケーションなどの障害で、根本的な治療は今の所ないが、適切な適応により社会生活上の困難は軽減される障害のことを言います。自閉症スぺクラム障害(自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害)、学習障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などが含まれます。原因は脳の機能的障害であり、親の育て方や愛情不足から起きるわけではありません。発達障害の頻度は約15人に1人の割合で、1クラス30人いれば2人程度いる計算になります。

気になる場合は

 言葉の遅れ・こだわり・パターン化した行動・不器用さなどがあると発達障害が気になります。気になる場合は専門家(小児神経科・児童精神科)の診察を受けることをお勧めします。発達障害という診断を告げられることは不安もありますが、お子さんの特性がわかることで、生活上の困難さを少しでも解決できる術について専門家からアドバイスを受けることができます。両親だけで悩まず、専門家と一緒に考えることで、子育てしやすくなることが期待できます。
最近私は、成人してから職場のトラブルから思い悩み、当院を受診し専門医につなげて、ようやく診断に至ったという方に関わりました。一番困っていたのは親でもなく本人でした。成人までの20年間の親や学校も含めた周囲の関わり方は子どもの成長に大きく影響します。勇気を持って専門家に相談をすることをお勧めします。親が気づいていない時は、信頼関係がある周囲の方(親族・園や学校の先生など)がお子さんの将来のために親に伝えていただくとありがたいです。

診断よりも大切なこと

 発達障害のお子さんは社会性や対人関係に悩んでいます。医療機関で診断されるとそれで終わりではなく、園や学校でどうやって過ごしていけるかを考えていく必要があります。お子さんの様子を一番知っているご両親が、園や学校にお子さんの特性を伝えていただくことがとても大切です。担任の先生だけでうまくいかない場合は園長先生や校長先生にもご両親がお伝えすることが大事です。子どものことは母親任せになりがちですが、父親も一緒になって伝えることは園や学校によい影響を与えます。
家庭での対応は、自尊心・自己肯定感を高めるために「ほめる」ことを意識してください。ほめるときのコツは1秒以内に思いきり感情を込めて、「やったね・さいこー・すごいね・かっこいー・すばらしー」という言葉を使いましょう。お手伝いをしてできたら、ほめてあげてください。おもちゃで遊んで散らかしてしまって片づける時、「ちゃんと片付けなさい」と言うのではなく、バスケットに入れてもらい、できたらまずほめて、元の場所に戻したら、またほめるといった方法もお勧めです。この場合、片づけるものをまず2~3個で始め、増やすことも大切です。焦らず、急がず、あきらめずに対応しましょう。
就学相談の時期になると、通常学級・特別支援学級・特別支援学校のどこに通学すべきか悩まれると思います。まず自分の目で確かめることが大切です。子どもと一緒に考え、いくつか見学に行くことをお勧めします。和式トイレの使い方や学校のチャイムで動くこと等も、事前に練習しておくと学校生活のスタートをうまく切れるかもしれません。
小学校入学は決してゴールではなく、最終目標は自分に自信を持ち生きていくこと、社会で生きていけるようになること、自分で稼げるようになることです。このことはすべてのお子さんに言えることです。

参考文献

発達障害 厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html
発達障害の理解と対応A(DVD) 平岩幹男 ジャパンライム株式会社
「おうちでできる学校準備」道城裕貴、寺口雅美:合同出版

夏本番、海へ山へといろんな経験をお子さんと一緒に楽しんでください。うちは富士山に登ってきました。2年前は一番下(当時小2)が9合目で高山病にかかりギブアップしたため下山、今回はリベンジでした。一番下は自信がないため参加せず、上の子ども3人と私で登り始めました。悪天候の中、念願の登頂を果たしました。子どもが大きくなると一緒に何かを経験する時間がなかなかとれなくなります。今回はよい思い出となりました。

先月の続きで、発達障害の具体的な対処法や最終目標についてお話します。

 

診断はあくまで入口

子育ての中で育てづらさを感じている場合、発達障害であるかもしれません。気になる場合は親だけで悩むのは得策ではありません。落ち着きがない・自分の世界に入ってしまう・友達と遊べないなどがある場合は勇気を出して専門機関へ相談することが大切です。発達障害を見過ごしていると、小学校に入ってきて、本来の症状に加えて、学業不振や不登校、ひきこもりなどの二次障害が起きやすくなると言われています。早めに対応することはお子さんの自己肯定感を低くしないためにも大切なことです。

診断がついたら終わりではなく、障害の特性を理解することで、子育てがしやすくなりますし、無用な叱り方も避けることができます。診断は医師が行いますが、医師だけに頼るだけでは十分とは言えず、園・学校、家族、周囲の方々に理解してもらいながら子どもとかかわっていくことが大切だと思います。

 

具体的な対処法

 発達障害のお子さんの特性を知っていると対応がスムーズにできます。代表的な事柄について2つ紹介します。

一つ目は耳から入る情報が、聞こえるが頭に入っていきにくいという特性があります。遠くから大声で話しても伝わりづらいです。目からの情報も合わせると理解しやすいので、写真・文字・絵を併用すると伝わりやすくなります。

 二つ目は子どもへの声かけです。例えばお子さんに座っていてほしいとき、命令形の「座っていなさい!」や禁止形の「すわっていないと駄目!」ではなく、希望形の「座っているとうれしいな~♡」という表現がお勧めです。命令形や禁止形で言うとその後ほめづらいのですが、希望形なら、うまくいった時にセットでほめることができます。「~してくれるとうれしいな~♡」の希望形をどんどん使って対応しましょう。

 

最終目標

 平岩先生は最終目標を「自分に自身がもて上を向いて生きていくこと」、「社会で生きていけるようになること」の2点だと言っています。

「自分に自身がもて上を向いて生きていく」には自己肯定感・自尊心を高めることが大事で、自分はよいやつだと思えるように、うまくいった経験つまり成功体験を積み重ねる必要があります。どんな小さなことでも、ほめてあげることが大事です。何かができたらほめてあげること、大人からすればたいしたことではなくても、子どもにとってはほめられることで自信がつきますし、親から愛されていることを実感します。その結果として自分自身が好きになります。座っていられたことをほめたり、おとなしく話を聞いていられたことをほめてください。ほめて育てることがコツです。もちろんですが、体罰は厳禁です。

「社会で生きていけるようになる」にはあいさつをする・ルールを守るなどの基本的な社会生活習慣を身につけて、さらに自分で稼げるようにしなければなりません。職業も本人の特性を理解しながら、その特性を武器に活かせるような職業を選択することをお勧めします。例えば、注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合は、特性として疲れを知らず、動き回るパワーがあります。授業中に動き回るとクラスメートに迷惑をかけますが、職業としてはセールスマンや営業などが向いています。

発達障害を取り巻く環境はまだまだ十分に整備されているとは言えず、無理解による誤解も起こります。ママだけでなくパパも一緒に対応しましょう。そして、あせらず、がんばりすぎず、あきらめずに対応することが大事です。

以上の話は決して発達障害のお子さんだけでなく、すべてのお子さんに当てはまります。私も自戒しながら子育てに役立てています。

 

参考文献

小児科臨床「最近注目されている発達障害」vol61,2008

発達障害 子どもを診る医師に知っておいてほしいこと 平岩幹男 金原出版

幼稚園・保育園での発達障害の考え方と対応 平岩幹男 少年写真新聞社

梅雨が明けると夏本番です。暑さ対策は万全ですか?昨年同様、節電の夏になりますが、水分補給や適度にクーラーや扇風機を使用して熱中症にならないように気をつけたいものです。

 昨今、「発達障害」という言葉をいろいろなところで耳にすることが多いかと思います。発達障害は少し前には「軽度発達障害」と言われたこともありました。軽度というと「軽い障害」だけだと誤解が生まれることから、今では「発達障害」という言葉に統一されています。発達障害の歴史は決して古くなく、20~30年前から診断や治療が始まっています。発達障害の専門家は小児神経科や児童精神科が担当しますが、専門家が足りず、予約し診察まで数か月待つことも多いです。発達障害は決して稀ではなく、近年の調査では子どもの10%近くいるとも言われており、より身近なこととして、親や園・学校、医療機関みんなで理解し支援していくことがとても大切であると思います。私自身も診療や園医をしながら発達障害のお子さんと関わっています。専門家でない一般小児科医の立場からみなさんに発達障害についてわかっていただきたいと思い今回のテーマに取り上げました。今回は発達障害の治療・研究についての第一人者である平岩幹男先生の講演や執筆した本を参考にしました。

 

発達障害とは

平成17年に施行された発達障害者支援法では「発達障害」を「自閉症・アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害・学習障害・注意欠陥多動性障害・その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。平岩先生は「発達の過程で明らかになる行動やコミュニケーション・社会適応の障害」と述べています。

1つの障害に対する特性がありますが、1人1人がもつ障害は人によって程度が様々です。ある人は注意欠陥多動性障害とアスペルガー症候群の両方の特性を持っていたり、さらに学習障害が合併する場合もあったり、年齢や環境により目立つ症状が違ってきたり、診断された時期により、診断名が異なることもあります。

 

主な障害の症状は

自閉症の症状は社会性の問題・コミュニケーションの問題・想像力の問題の3つが挙げられます。身振り手振りが理解できない・不器用さがある・視線があわない・周囲を気にせず熱中するなどが見られます。知的な障害がない場合をアスペルガー症候群と呼んでいます。最近では、アスペルガー症候群を高機能自閉症と呼ぶようになってきています。

学習障害は読む・書く・計算するなどの特定の能力を学んだり、おこなったりすることに著しい困難があります。

注意欠陥多動性障害(ADHD)は忘れ物が多い・作業を途中で投げ出す・集中できないといった「不注意」とじっとしていられない・そわそわしている・すぐに歩き回る・割り込むなどの「多動・衝動性」が主な特徴としてあります。

 

原因はしつけが悪いわけではない

発達障害の原因が、遺伝的なこと・胎児期の環境の影響・喫煙・テレビやビデオを長時間視聴するなど可能性はあると言われていますが、現在のところ、決定的なものがわかっていないのが現状です。決してしつけや環境が悪いからということが原因ではないので、周囲の無理解で親を責めたりすることはしないでください。

 

大切なこと

 今までに述べた発達障害の症状を知ると、自分の子どもが大丈夫か気になってくるかもしれません。特に園・学校の集団生活の中でお子さん自身が困っていたり、園・学校の先生方や周囲の子どもたちが対応に困難を感じている場合は発達障害の可能性がないかどうか気にした方がいいかもしれません。お母さんだけが気になり困っているときは勇気を出して、園・学校に相談をして集団生活の中で対応に困っていることはないのかを聞いてみてください。また、園・学校から「少し気になっている」と言われた場合は家で困っていなくても、どう気になっているのかを園・学校に聞いてみると、お子さんを育てていくうえでプラスになると思います。園・学校とうまく連携しながらお子さんを育ていく一番の理解者・責任者は親です。   

来月は具体的な対処法や最終目標についてお話します。

 

参考文献

小児科臨床「最近注目されている発達障害」vol61,2008

発達障害 子どもを診る医師に知っておいてほしいこと 平岩幹男 金原出版


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